1. 腎

1. 腎の解剖

腎臓はソラマメ形の充実性臓器です。主な機能は尿を作ることです。腹腔の後壁にあたる後腹膜内に左右一対が存在します。腎の周囲は脂肪組織で覆われ、さらにその周りをゲロタGerota筋膜と呼ばれる膜様の結合織で包まれています。ゲロタ筋膜自体は骨格筋を包んでいませんが、腹壁の筋膜に連続しています。ゲロタ筋膜は腎癌の進展を防ぐ障壁になると考えられています。さらに腎表面は薄い線維性の被膜(腎被膜)が存在し、腎実質と周囲脂肪組織を隔てています。
腎実質は癒合した8つの葉からなり、それぞれが三角形の髄質とそれを包む皮質から成っています。割面で髄質は暗赤色で皮質は淡赤色です。腎臓の中央内側のくぼんだ部分が腎門で動静脈および尿路が交通します。
1本の腎動脈は5本の区域動脈に枝分かれしてそれぞれ5つの腎区域(上区、上前区、下前区、下区、後区)を支配します。一方、それぞれの区域から出た区域静脈は合流して3本ほどになり、最終的に腎外で1本の主静脈となります。
腎門の奥にある腎の中心部を腎洞と呼び、尿路、動静脈の他、血管やリンパ管に富む脂肪組織を容れています。腎洞には被膜がなく、腎組織は直接脂肪組織に接します。尿路は髄質を覆う腎乳頭とそれを包む小腎杯、小腎杯がいくつか合流した大腎杯、大腎杯が一つに合流した腎盂となって腎から出て、細い管である尿管となります。
内分泌臓器である副腎は腎上端に接しており、脂肪組織とゲロタ筋膜で包まれています。
腎の所属リンパ節は腎門部リンパ節、腹部傍大静脈リンパ節、腹部大静脈間リンパ節、腹部傍大動脈リンパ節です。


2. 腎臓の検体

確定診断が手術検体によって行われる場合があります。手術以外の治療法がある転移性腫瘍やリンパ腫、膿瘍が疑われた場合などに腎生検が考慮されます。

1) 腎部分切除術
腫瘍とその周囲腎組織をくりぬくように切除します。表面に近く最大径が4cm以下の腫瘍で検討されます。
2) 腎摘除術
腎臓とその周囲脂肪組織およびゲロタ筋膜、時に副腎を一塊として摘出します。

リンパ節転移の頻度が比較的低く、郭清が行われないのでリンパ節が別に提出されることはあまりありません。下大静脈の血栓が別に提出されることがあります。

 

3. 腎癌の肉眼的分類(腎癌取り扱い規約第4版より)

腎洞(腎盂周囲)脂肪組織への浸潤は見逃しやすいので注意しましょう。腎洞の脈管内に腫瘍が認められた場合も、大きさに関わらずpT3と解釈することが、2012年のISUP(国際泌尿器病理学会)で 合意されています。

TX: 原発腫瘍の評価が不可能
T0: 原発腫瘍を認めない
T1: 最大径が7cm以下で、腎に限局する腫瘍
T1a: 最大径が4cm以下
T1b: 最大径が4cmをこえるが7cm以下
T2: 最大径が7cmをこえ、腎に限局する腫瘍
T2a: 最大径が7cmをこえるが10cm以下
T2b: 最大径が10cmをこえ、腎に限局する腫瘍
T3: 主静脈または腎周囲組織に進展するが、同側の副腎への進展がなくゲロタ筋膜を越えない腫瘍
T3a: 肉眼的に腎静脈やその他区域静脈(壁に筋組織を有する)に進展する腫瘍または腎周囲および/または腎洞(腎盂周囲)脂肪組織に浸潤するがゲロタ筋膜をこえない腫瘍
T3b: 肉眼的に横隔膜下の大静脈内に進展する腫瘍
T3c: 肉眼的に横隔膜上の大静脈内に進展、または大静脈壁に浸潤する腫瘍
T4: ゲロタ筋膜をこえて浸潤する腫瘍(同側副腎への連続的進展を含む)

 

3. 腎臓の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
腎部分切除術検体ではゲロタ筋膜(あるいは腎被膜)のついている部分があり、その反対側が切除断端となります。
腎摘除術では前方に腹膜で覆われた光沢のある部分を認めます。下方にはゲロタ筋膜の存在しない部分があります。腎動静脈、尿管の出ている腎門部が内側です。壁の薄い腎静脈は最も背側に位置します。また、尿管は下方に向かって走行します。

3) 肉眼所見、計測
(1) 通常泌尿器科医によって長軸に沿って割が入れられています。割が入っていない場合は尿管から長いプローブを入れて、腫瘍の中心に向かって突き刺します。腎門部の反対側からプローブに沿って刃を入れると、腎洞と腫瘍の関係がよくわかる割面が出ます。この割面と平行に前方にもう一割入れると静脈系が観察できるといわれています。
(2) 腎部分切除術では検体の大きさを測定します。残存する腎が小さいとタンパク尿や腎不全を起こすことがあります。
(3) 腫瘍の数と占拠部位(皮質か髄質か)を記録します。腫瘍と周囲組織との境界(明瞭か不明瞭か)を調べます。割面の色調(黄色調、白色調)を観察します。壊死の有無と腫瘍全体に占める割合を記載します。
(4) 腎周囲または腎洞(腎盂周囲)脂肪組織浸潤の有無を観察します。腎周囲脂肪組織は腫瘍との関係がわかるまで剥がさない方がよいと思います。
(5) 主静脈やその他区域静脈への進展を調べます。
(5) 腫瘍径の測定をします。最大割面における長径×短径(cm)を計測します。主静脈やその他区域静脈への進展は腫瘍径には含めません。
(6) 写真撮影を行います。

4) マーキング
腎摘除術および腎部分切除術の両方でインクを塗ることが2012年のISUPで合意されています。
(1) 腎摘除術の検体は全体に塗る場合と、外側から観察して腫瘍がありそうな領域のみにインクを塗る場合があります。
(2) 腎部分切除術の検体は切除断端にインクを塗ります。腎周囲脂肪組織が何らかの理由で切除されていない場合はその部分にも別の色でインクを塗ります。

5) 切り出し

*腎部分切除術標本
(1) 腫瘍の中心部を通る割面を入れ、それに直交して5mm間隔で割を入れていきます。
(2) 割面の写真を撮影します。
(3) 腫瘍の最大径1cmあたり1ブロックを切り出し、少なくとも3ブロックは作製することが一般的な指針として2012年のISUPで合意されています(最大径が4cmなら4ブロックで、最大径2cmでも少なくとも3ブロックは切り出します)。切除断端に最も近い部分、腎洞あるいは腎周囲脂肪組織への浸潤が疑われる部分が含まれるようにします。腎盂が認められれば、腫瘍と尿路の関係のわかる部分を1ブロック作製します。

*腎摘除術標本
(1) 尿管断端を周囲組織ごと切り出します。腎癌の転移はほとんどありませんが、尿管内というより尿管周囲組織にある静脈を介して起こると言われています。
(2) 割を入れたり、指で押すなどして腎門部のリンパ節を探します。
(3) 腎静脈に腫瘍の進展を思わせる拡張がないか確認し、動静脈断端を輪切りにして提出します。腎静脈から腫瘍塞栓が突出して断端陽性に見えることがありますが、腎静脈が収縮しているだけの可能性もあります。そのような場合は組織学的に腫瘍が血管壁に付着しているかどうかで判定します。
(3) 最初に入れた割面に直交するように水平断で5mm間隔で割を入れていきます。下から上へ見上げるように並べ写真を撮影します。
(4) 腫瘍の最大径1cmあたり1ブロックを切り出し、少なくとも3ブロックは作製することが一般的な指針として2012年のISUPで合意されています(最大径が4cmなら4ブロックで、最大径2cmでも少なくとも3ブロックは切り出します)。
① 腎洞脂肪織への浸潤が疑われる部分が少なくとも3ブロック含まれるようにします。明らかに浸潤している場合や浸潤がない場合には1ブロックを切り出します。
② 腫瘍および周囲脂肪織との境界部にいくつか割を入れます。割面を観察し、腎被膜の最も薄い部分、あるいは腎被膜を越えて周囲脂肪織への浸潤が疑われる部分が少なくとも2-3ブロック含まれるようにします。
③ 静脈進展を探し、あれば作製します。皮質方向へ逆行性に進展していることもあります。
④ 尿路に浸潤していることは稀ですが、腫瘍との関係がわかる部分を1ブロック作製します。腎盂癌の疑いがある場合は多めにブロックを作製する必要があります。
⑤ 腫瘍の肉眼所見の異なる部分を作製します。特に悪性度の高い部分を疑わせる境界不明瞭な部分や肉腫様変化を思わせる白色調の部分を探します。
(5) 腫瘍と腎門部の中間地点で、腫瘍から出てきた静脈が確認できればブロックにします。また、腎門部の腎静脈と腎洞脂肪織を含む部分を作製していなければ切り出します。
(6) 腫瘍から離れた腎組織を提出します。皮質、髄質、小腎杯の入った固定の良い部分を1ブロック作製します。動脈硬化性腎症が約30%、糖尿病性腎症が約20%で認められると言われています。
(7) 副腎を探し、切除されていれば腫瘍の有無を確認します。腫瘍が存在していた場合、主腫瘍と連続していればT4、連続していなければ遠隔転移(M1)となります。著変がなければ1ブロック作製します。術前に副腎腫瘤を認めない場合、副腎を温存しても予後に影響しないとも言われており、切除されていないこともあります。
(8) 下大静脈の血栓が別に提出されている場合があります。腫瘍が認められた場合は血管壁と思われる部分を2ブロック以上切り出して、壁に付着しているかを組織学的に確認します。腫瘍と思われる部分がなければ全て提出します。

腎腫瘍は放射線療法や通常の化学療法は効果が低く、切り出しの結果によって術後補助療法が行われることはあまりありません。部分切除術で断端が陽性であった場合、腎摘除術が検討されます。


4. 肉眼像と切り出しの実際