1. 前立腺

1. 前立腺の解剖

前立腺は充実性臓器です。主な機能は精液の産生です。男性の膀胱の下側、直腸の前側に位置します。したがって、直腸指診陽性の場合は前立腺後面に癌があることになります。前立腺の上後方には同様に精液を産生する精嚢が付着しています。精嚢は精子の通る精管と合流し、射精管となって前立腺に入ります。
前立腺の重量は18g、長さ3cm、幅4cm、厚さ2cm程度です。前面、後面、左面、右面の4つの面を有しています。上は膀胱に接しているため平坦ですが、下は尖った形をしています。下端から1cmほどを尖部と呼びます。
前立腺の中を尿道が通ります。尿道は前立腺の中心で35度ほど上に曲がっており、そのすぐ下で射精管が開口します。
前立腺内の位置は移行領域(TZ)、中心領域(CZ)、辺縁領域(PZ)の3つに分けて表記されることがあります。これらは超音波像では認識できますが、肉眼的に区別するのは困難です。尿道が曲がる部分より上の部分で尿道の周囲がTZ、TZの後側で射精管を取り囲むのがCZ、その他大部分がPZです。
高齢者ではCZが肥大して、前立腺後側の左右および上方に突出することがあり、それぞれを左葉、右葉、中葉と呼ぶことがあります。
前立腺は被膜と呼ばれる構造物で包まれていますがその解剖の詳細は文献によって異なります。被膜の厚さは後面と左右の面で0.5mm程度です。前面は内骨盤筋膜(女性の子宮傍組織にあたります)と連続しています。膀胱頚部側は膀胱の筋層が入り込んでいるため、被膜は不明瞭です。尖部に被膜はなく、直に外尿道括約筋に接しています。
前立腺被膜の側方は内骨盤筋膜の一部と考えられる膜様の結合組織で包まれています。前立腺被膜と膜様結合組織の間を血管と陰茎の勃起機能に関与する神経が走行します。
前立腺被膜と後方の直腸との間にはデノビエDenonvillier(デノンビリエ)筋膜があります。デノビエ筋膜は腹膜が入り込んで癒合したもので、骨格筋を包んでいるわけではありません。
所属リンパ節は骨盤内リンパ節の中でも閉鎖リンパ節、内腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節です。

2. 前立腺癌の肉眼的分類(前立腺癌取扱い規約第4版より)

前立腺部尿道原発の癌は含みません。前立腺癌の特徴はpT1が存在しないことです。また、pT2の細分類は臨床との関連性を欠くため、現時点では任意で行うことが2009年のISUP(国際泌尿器病理学会)で合意されています。

pT2: 前立腺に限局
pT2a: 片葉の1/2以内の進展
pT2b: 片葉の1/2をこえて広がる
pT2c: 両葉への進展
pT3: 前立腺外に進展
pT3a: 精嚢を除く前立腺外へ進展
pT3b: 精嚢に浸潤
pT4: 隣接組織に固定または浸潤(外尿道括約筋、膀胱頸部、直腸、肛門挙筋、骨盤壁)

 

3. 前立腺の検体

前立腺癌で手術が行われるのは主にT2b以下と考えられた症例ですが、それより上であっても切除可能であれば手術されることがあります。
前立腺全摘除術では前立腺と精嚢が切除されます。また、精管の一部も切除されます。検体の前面と側面は前立腺被膜です。側面は腫瘍が近くに達している場合は神経血管束が切除されることがあります。後面はデノビエ筋膜まで切除されます。上面は通常、膀胱頸部で切断されています。
大きく切開する手術には腹部から摘出する経恥骨後式と肛門の前から摘出する経会陰式があります。断端陽性となりやすい部位に違いがあると言われており、経恥骨後式では尖部,経会陰式では膀胱頸部側との記載があります。腹腔鏡やロボットが使用されることもあります。
最も多く行われているのは経恥骨後式です。経恥骨後式のように腹部から摘出した場合、尖部の前面に結紮糸(陰茎から来る静脈を切断するための)があるのが特徴です。糸は固定前にはずします。
変形を防ぐため、充分な固定をしてから切り出しをすることがISUPで合意されています。一晩固定しても中心部は未固定の場合があります。23G注射針をつけた注射針で20mlの10%ホルマリンを何箇所か注入したり、60℃で1-2分、マイクロウェーブ固定を行うことで、固定を促進することができます。

 

4. 前立腺癌の切り出し

ISUPは前立腺検体の全てを包埋する方法と一部を包埋する方法のいずれも承認しています。全てを包埋した場合は、一部を包埋した場合に比べ、T因子や断端陽性率が高いとの報告や被膜外浸潤、精嚢浸潤の検出率が高く3年無再発生存率も高いとの報告があります。一部を包埋する場合はその方法について記載する必要があります。

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
精嚢は前立腺の上で尿道より後方に付着します。割面では左右のオリエンテーションはつきません。

3) 計測と肉眼所見の記載
(1) 固定前に前立腺の重量と大きさを測定します。精嚢は切除の際に先端が欠けたりして重量や大きさがが一定しないため、精嚢と精管を切り落とした後に測定します。前立腺組織まで切り落とさないよう気をつけます。
(2) 通常摘出された前立腺は平滑筋線維で囲まれているため、表面は平滑で淡褐色調に見えます。白色調だと前立腺に切り込んでいる場合があります。ただし、体内に残った良性の前立腺組織が術後のPSA値に影響するかについては議論があります。黄色均一な色調の場合、剥離断端に腫瘍が露出している可能性があります。切り込んで断端が陽性になった場合、前立腺癌取扱い規約第4版ではpT2+となり、国際対がん連合(UICC)のTNM分類第7版ではpT分類をつけません。研究用に検体の一部を切り取っていないか提出医に確認します。なお、前立腺癌が黄色に見えるのは細胞質に脂質を豊富に含むためと言われています。
(3) 割面で腫瘍が認識できる場合は位置を記載します。上を近位側、下を遠位側と呼び、割面は尿道を中心に左、右、前部、後部に4分割します。また、腫瘍の大きさを測定します。
(4) 割面で膀胱頚部への浸潤を確認します。肉眼的に浸潤がわかる場合はpT4, 顕微鏡でしかわからない場合はpT3aになります。

4) マーキング
固定後にマーキングします。インクが2色あれば左右を別の色(緑と青)で塗り分けます。割面を観察する向きがわからなくなっても切片上で病変の位置がわかります。精嚢と精管を切り落とした部分に塗らないよう気をつけます。3色では後側の中央にさらに別の色で縦線を入れることがあります。4色あれば前後左右で塗り分けることがありますが、尖部や膀胱頸部側は塗りにくいといわれています。

5) 切り出し
(1) 前立腺は後面に直角に3から5mmの厚さで水平断にします。尖部から割を入れていきます。
(2) 膀胱頸部側および尖部は矢状断にします。放射状に割を入れる場合に比べ厚さが均一になります。左右を分けて出します。包埋皿に入らない場合は半分にしてさらに前後に分けて出します。前立腺癌は尿道に沿って進展するというより周囲組織に浸潤するため、尿道を割面に出す必要はありません。一方で、尿道あるいは膀胱に発生する癌では尿道断端を観察することが重要となります。
(3) 下から見上げるように割面の写真を撮影します。
(4) 正中線で割を入れ左葉と右葉に分けます。包埋皿に入らない場合はさらに2つか3つに分けます。
(5) 左右の精嚢は浸潤がないことを確認するため、前立腺との境界部を輪切りにして提出します。境界部や近傍の軟部組織に癌が見られた症例では残りも提出します。
(6) 精管断端の提出は必須ではありませんが、作製する場合は輪切りにします。
(7) 別ビンでリンパ節が提出されていた場合は個数を数えてください。

断端陽性、精嚢浸潤、被膜外進展が見られれば、放射線治療が検討されます。リンパ節転移が認められれば、内分泌療法が考慮されます。

 

5. 肉眼像と切り出しの実際

前立腺癌

6. 経尿道的前立腺切除術

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
断片状の検体であり、通常オリエンテーションはつきません。

3) 計測と肉眼所見の記載
(1) 重量を測定します。
(2) 肉眼的に偶発的に癌が含まれていることがあります。指で押してみて硬い部分(線維化)や光沢のない黄色調の部分がないか探し、あれば作製します。光沢のある黄色調の部分は脂肪組織であり、前立腺被膜の穿孔を示唆します。

4) マーキング
インクでマーキングすることがあります。微少な癌であれば取り切れたかどうか判定ができます。

5) 切り出し
前立腺癌取扱い規約第4版では8カセット(総重量12g以上)でブロックを作製することが推奨されています。一部を提出する際には重量を測定しましょう。検鏡した結果、切片上に占める癌の面積の割合が5%以下の場合はT1a、5%を越えるとT1bとなります。