1. 甲状腺

1.  甲状腺の解剖

甲状腺は充実性臓器です。ホルモンを産生します。気管および食道に隣接しています。左右の葉からなり、中心は峡部と呼ばれるくびれた部分でつながっています。各葉の大きさは縦が約4cm、幅が約1.5cm、厚さは約2cmです。割面では赤褐色に見えます。峡部から錐体葉と呼ばれる甲状腺組織が頭側に伸びていることがあります。
甲状腺は被膜と呼ばれる薄い結合織組織で覆われています。甲状腺被膜には副甲状腺が付着しています。甲状腺と同様にホルモンを産生します。大きさは数mmで多くは4つ存在します。左右の葉の上端近傍および下端の外側あるいは後側に認められます。
甲状腺被膜はさらに外科的被膜と呼ばれる脂肪結合組織で覆われています。外科的被膜の前方は胸骨甲状筋、側方は下咽頭収縮筋、後方は甲状軟骨と気管が存在します。
所属リンパ節は頚部リンパ節と上縦隔リンパ節です。頚部リンパ節は甲状腺癌取扱い規約第6版では喉頭前、気管前、気管傍、甲状腺周囲、上内深頚、下内深頚、外深頚、顎下、オトガイ下、浅頚の10箇所に分けられています。リンパ節転移は甲状腺の近傍で、かつ頚部の中心側にある喉頭前、気管前、気管傍、甲状腺周囲リンパ節から起こると言われています。

2. 甲状腺癌の肉眼的分類(甲状腺癌取扱い規約第6版より)

甲状腺癌の肉眼的分類の特徴として、組織が未分化癌であった場合、T4になることが挙げられます。

TX: 原発腫瘍の評価が不可能。
T0: 原発腫瘍を認めない。
T1: 甲状腺に限局し、最大径が2cm以下の腫瘍(最大径≦2cm)。
T1a: 甲状腺に限局し最大径が1cm以下の腫瘍(最大径≦1cm)。
T1b: 甲状腺に限局し最大径が1cmをこえ2cm以下の腫瘍(1cm<最大径≦2cm)。
T2: 甲状腺に限局し最大径が2cmをこえ4cm以下の腫瘍(2cm<最大径≦4cm)。
T3: 甲状腺に限局し最大径が4cmをこえる腫瘍(4cm<最大径)、もしくは大きさを問わず甲状腺の被膜外に微小進展(胸骨甲状筋あるいは甲状腺周囲脂肪組織などに進展)する腫瘍。
T4: 大きさを問わず甲状腺の被膜をこえて上記以外の組織あるいは臓器にも進展する腫瘍。
T4a: 甲状腺の被膜をこえて上記以外の組織あるいは臓器にも進展するが、下記の進展を伴わないもの。
T4b: 椎骨前筋群の筋膜、縦隔の大血管に浸潤するあるいは頸動脈を取り囲む腫瘍。

未分化癌の場合
T4a: 甲状腺に限局するもの。
T4b: 甲状腺外に進展するもの。

3. 甲状腺の検体

1) 葉切除術
左葉あるいは右葉を切除します。癌では峡部まで切除します(葉峡切除)。転移のない濾胞性腫瘍やT1の乳頭癌で主に行われます。
2) 亜全摘術
峡部浸潤が疑われた場合は葉切除術に加えて、対側甲状腺の一部を切除する亜全摘術を行うことがあります。また、全摘術において近傍にある反回神経の損傷を防ぐため、甲状腺組織を少量残す場合もあります。
3) 全摘術
甲状腺を全て摘出します。放射性ヨードによる治療が可能であるため、遠隔転移やリンパ節転移がある場合に行われます。術後に甲状腺ホルモンを服用する必要があります。
検体の表面は甲状腺被膜です。隣接する筋や気管に浸潤が疑われた場合は一部が切除されていることがあります。
リンパ節郭清は濾胞癌では行われません。乳頭癌では喉頭前、気管前、気管傍、甲状腺周囲リンパ節が切除されます。他のリンパ節も腫大していたり、穿刺吸引細胞診で転移が確認された場合は切除されることがあります。
副甲状腺は温存されます。もし、副甲状腺を摘出したり、リンパ節郭清の際に血流を障害した場合には、術中迅速診断で副甲状腺であることを確認し、細かく切って体内に戻します。

4. 甲状腺癌の切り出し

1) 名前とIDの確認
濾胞性腫瘍か乳頭癌かで切り出し方が変わるため、穿刺吸引細胞診(FNA)の結果を確認し参考にします。

2) オリエンテーション
葉は上が尖り、下が丸くなっていますが、病変によって不明瞭なこともあります。峡部は下方に存在します。甲状腺は峡部を中心に前側に弯曲しています。葉切除では峡部側断端(糸で結紮されていることがあります)が内側です。
オリエンテーションがわからない場合は提出医に確認してください。

3) 計測と肉眼所見の記載
(1) 腫瘍の個数を数えます。
(2) 腫瘍径を測定します。
(3) 腫瘍の境界が明瞭であるか、被膜を有するかを確認します。
(4) 壊死や出血がないかを調べます。
(5) 筋が同時に切除されていた場合は肉眼的な浸潤の有無も確認します。
(6) 甲状腺に褐色あるいは黄色の結節が付着していた場合、副甲状腺あるいはリンパ節の場合があります。

4) マーキング
甲状腺被膜をインクで塗ります。峡部断端は仮に陽性でも腫瘍が甲状腺に限局している可能性がありますので、峡部断端は別の色で塗った方が良いかもしれません。

5) サンプリング
(1) 病変の最大割面が出るように矢状断あるいは水平断を入れた後、それに平行に3~5mmのスライスを作製し、写真を撮影します。
(2) 病変部の肉眼像によって切り出しを変更する必要があります。
① 単発性腫瘤で境界明瞭、明らかな被膜を有する場合
FNAの結果が濾胞性腫瘍であれば、濾胞腺腫と濾胞癌を被膜浸潤の有無で鑑別する必要がありますので被膜全てを標本にします。被膜の厚さが不均一であれば腺腫様過形成が考えられますので非腫瘤部との境界部を含む代表的部分を作製します。
② 単発性腫瘤で境界不明瞭な場合
乳頭癌など悪性腫瘍を疑います。周囲組織との関係がわかるように切り出します。特に腫瘍が突出した部分は、露出あるいは脂肪織浸潤している可能性があるので必ず作製します。石灰化している場合は無理にメスを入れると検体が割れることがあるので、できるだけ石灰化部分のみを切り出した後、脱灰して割を入れます。急速に増大する腫瘍や壊死・出血が認められる場合は低分化癌や未分化癌を疑い多数の切片を作製する必要があります。
③ 多発性腫瘤の場合
多発性腫瘤ではまず良性の腺腫様過形成を考えます。ただし、触診での単発性腫瘤と多発性腫瘤では癌が存在する可能性は同程度と言われており、FNAの結果を確認し、割面を注意深く観察します。乳頭癌を除くと、腫瘤の個数が2-3個の方が、3個より上の場合に比べて癌(濾胞癌など)の合併する頻度は高いという報告があります。腺腫様過形成では癌の合併に関しては5%程度や1%未満といった記載があります。5個以下の場合は全てから標本を作製します。5個以上の場合は大きな腫瘤(2cmを越える)、明らかな被膜を有する腫瘤、充実性腫瘤、硬い腫瘤、そして肉眼所見が異なる腫瘤を中心に5箇所以上の腫瘤を検索します。
(5) 非腫瘤部をよく観察し、腫瘤性の病変を探します。なければ左右両葉からそれぞれ1ブロック作製します。
(6) 峡部を切り出します。葉切除術であれば断端となります。
(7) 副甲状腺あるいはリンパ節が付着していた場合はブロックにします。

葉切除術を行い、術後に濾胞癌でかつ腫瘍被膜への広範浸潤が判明した場合や、乳頭癌で甲状腺内転移を認めたり組織学的な悪性度が高い場合に残存甲状腺の切除を行うことがあります。全摘出術で断端陽性であれば放射性ヨードが投与されることがあります。
未分化癌であれば放射線療法や化学療法が行われることがあります。

5. 肉眼像と切り出しの実際
(写真は草津総合病院 山本喜啓先生と近江八幡市立総合医療センター  細川洋平先生のご厚意による)

乳頭癌