1. 口腔

1. 口腔の解剖

口腔は唇の赤い部分(赤唇部)から始まり、後方は舌の有郭乳頭(または分界溝)、口蓋舌弓、硬口蓋後縁で終わります。さらに後方は中咽頭へと続きます。口腔の主な機能は発声と嚥下です。口腔癌に関する規約には頭頸部癌取扱い規約改訂第5版と口腔癌取扱い規約第1版があります。

1) 口唇
上下の唇の赤い部分(赤唇部)とそれがつながる部分(唇交連)です。
2) 舌
舌のうち口腔に分類されるのは前2/3で、有郭乳頭(または分界溝)より後方は中咽頭に入ります。舌表面は舌背、舌縁、舌下面という3つの領域に分かれます。舌の大部分は骨格筋からなっており、これには4つの内舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、茎突舌筋、口蓋舌筋)と4つの外舌筋(上縦舌筋、下縦舌筋、横舌筋、垂直舌筋)が含まれます。これら舌筋は正中部にある舌中隔という結合組織で左右に分けられます。
3) 頬粘膜
頬の粘膜面だけではなく、臼歯の後方(臼後部)や上・下唇の粘膜面とそこから歯肉に至る上・下頬歯槽溝までが含まれます。
4) 上顎歯肉、5) 下顎歯肉
歯肉は歯とその周辺の歯槽骨を覆う粘膜部分です。
6) 口腔底
口腔の底の部分です。
7) 硬口蓋
口腔の天井部分で直上に上顎骨があります。

口腔内病変の広がりは歯の番号(歯式)で表される場合があります。

2. 口腔の肉眼的分類(頭頚部癌取扱い規約改訂第5版)

頭頸部癌取扱い規約改訂第5版と口腔癌取扱い規約第1版とで口唇以外のT4aの定義が異なっています。どの分類を用いたか記載が必要です。ここでは頭頚部癌取扱い規約改訂第5版の分類を記載します。

TX: 原発腫瘍の評価が困難
T0: 原発腫瘍を認めない
Tis: 上皮内癌
T1: 最大径が2cm以下の腫瘍
T2: 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3: 最大径が4cmをこえる腫瘍
T4:
T4a:
(口唇) 皮質骨、下歯槽神経、口腔底、皮膚(顎または外鼻)に浸潤する腫瘍
(口腔) 皮質骨、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、上顎洞、顔面の皮膚に浸潤する腫瘍
T4b: (口唇および口腔)咀嚼筋間隙、翼状突起、または頭蓋底に浸潤する腫瘍、または内頚動脈を全周性に取り囲む腫瘍

注:歯肉を原発巣とし、骨および歯槽のみに表在性びらんが認められる症例はT4としない。

 

3. 口腔の検体

口腔癌の検体は顎骨の切除を伴うことがあります。下顎骨を切除する際に骨の連続性が保たれる方法が辺縁切除です。その際に、下顎骨を垂直に切り取った場合を矢状断切除、水平に切り取った場合を歯槽頂部分切除と呼ぶことがあります。下顎骨が離断する場合は区域切除と呼び、切除範囲が半分に達すると半側切除、半分を越えると亜全摘となります。上顎骨では一部を切除する部分切除と、大部分を切除する亜全摘があります。上顎骨、下顎骨いずれも全部を切除した場合は全摘です。

1) 口唇
多くは早期癌です。大部分が下口唇に発生し、オトガイ神経に浸潤することがあります。楔状に切除されます。
2) 舌
口腔癌の大部分は舌癌が占めています。好発部位は舌縁部(後外側)です。T2以下の検体が多いです。口腔底に進展することがあります。腫瘍の大きさによって舌部分切除、舌半側切除、舌(亜)全摘を行います。
3) 頬粘膜
上皮内癌であれば粘膜切除、浸潤癌であれば頬筋あるいは皮膚まで切除されます。同時に上顎骨あるいは下顎骨の一部が切除されることがあります。臼後部では顎骨の辺縁切除、区域切除、半側切除が行われます。
4) 上顎歯肉
多くは早期癌です。直下に骨があるため、比較的容易に上顎骨へ浸潤します(特に歯の周囲の癌)。小さな腫瘍では骨膜を含む歯肉切除、大きな腫瘍では上顎骨部分切除あるいは(亜)全摘を行います。
5) 下顎歯肉
歯肉癌は上顎に比べ下顎の方が頻度が多いです。直下に骨があるため、比較的容易に下顎骨へ浸潤します(特に歯の周囲の癌)。また、下顎骨内には神経の通る下顎管があり、神経浸潤が起こることがあります。癌と下顎骨との間で可動性があると骨膜を含む歯肉切除、可動性のない場合は舌側なら下顎骨矢状断切除、歯肉側なら歯槽頂部分切除を行います。肉眼的に皮質に浸潤していたり、神経浸潤がある場合は下顎区域切除が行われます。
6) 口腔底
直下に舌下腺があり、癌が直接浸潤することがあります。部分切除あるいは全切除が行われます。舌側の下顎骨骨膜浸潤が見られた場合は矢状断切除が行われます。
7) 硬口蓋
最も多いのは扁平上皮癌ですが、小唾液腺腫瘍も少なくありません。小唾液腺腫瘍は硬口蓋と軟口蓋の境界部に多く、粘膜下腫瘤として認められます。骨浸潤によって鼻腔あるいは上顎洞に達することがあります。小さな腫瘍では骨膜までの局所切除、大きな腫瘍では上顎骨部分切除あるいは(亜)全摘を行います。上顎骨には切歯孔と左右の大口蓋孔という神経の通る孔があり、この部分から神経周囲浸潤が起こることがあります。

 

4. 口腔の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
口腔領域の検体は複雑な形態をしている場合が多く、オリエンテーションをつけることが困難な場合もありますが、必要な場合には主治医に連絡をとり、方向をしっかりと把握しましょう。また割を入れた後には組織の再構築が困難になることがあります。割面の写真を保存すると、肉眼的な病変部位や広がり、歯との関連性や断端の把握が容易となります。

3) 計測と肉眼所見の記載
ルゴールを塗布すると癌あるいは異形成でない部分が褐色に染まります。

(1) 断端からの距離を測定します。浸潤癌、上皮内癌、高度異形成が断端から5mm以内に達していると再発の可能性が上がります。舌縁部の癌は外側に進展し口底の粘膜断端が陽性になることがあります。通常1cm程度(未固定)の断端がとられています。
(2) 腫瘍径を測定します。口腔癌のT分類では腫瘍径が重要となります。
(3) 割面で腫瘍の厚さを測定します。10mm以上で放射線治療の適応となります。
(4) 主病変以外に高度異形成で見られる紅斑や、角化型異形成を示唆する白色肥厚部が粘膜にないか調べます。紅斑は炎症性変化で見られることもあります

4) マーキング
上記のごとく、口腔領域の検体は時としてオリエンテーションをつけることが困難な場合があります。割をいれる前に断端をしっかりと把握し、マーキングを行いましょう。

5) サンプリング
口腔癌の所属リンパ節は頚部リンパ節です。規約によって採用されている分類が異なっています。頭頚部癌取扱い規約第5版では頚部リンパ節はオトガイ下リンパ節、顎下リンパ節、前頚部リンパ節(喉頭前リンパ節、気管傍リンパ節など)、側頚リンパ節(副神経リンパ節、鎖骨上窩リンパ節、内深頚リンパ節など)からなります
内深頚リンパ節など、郭清されたリンパ節が脂肪に埋まった状態で提出された場合、はさみでひとつひとつ取り出すとリンパ節の個数がわかります。リンパ節転移の有無は術後補助療法を検討する上で重要となりますので全て探し出して提出してください。辺縁が不明瞭となった白色結節は、リンパ節に転移した腫瘍が被膜を破り、周囲結合織に浸潤している可能性があります(被膜外浸潤)。これも術後補助療法を検討する上で重要な所見ですので周囲結合織ごと切り取ってください。口腔の癌ではリンパ節転移の程度を表すN因子は転移巣の大きさで分類されます。大きさが3cmをこえるリンパ節は割を入れて、転移を思わせる白色部分があればその長径を測定して下さい。転移の大きさが3cmをこえるとpN2, 6cmをこえるとpN3となります。
サンプリングの方法については口腔癌取扱い規約第1版に比較的詳しく記載されています。

(1) 軟組織のみの検体

① 口唇
矢状断で約5mm程度の間隔で平行に割を入れて、全て提出します。

② 舌
前額断で約5mm程度の間隔で平行に割を入れ、割面の写真を撮影します。腫瘍の最深部を中心に提出します。

③ それ以外
検体の長軸に直交するように約5mm程度の間隔で平行に割を入れ、全て提出します。

(2) 上顎骨・下顎骨を含む検体

硬組織と軟組織が混在する場合には標本作製に熟練を要する場合が多いです。

① 硬組織と軟組織を分離せずに切り出す場合
軟組織にはあらかじめメスで割をいれておきます。硬組織はダイヤモンドディスクを装着した歯科用エンジンを用いて割をいれ、割面を写真撮影した後、脱灰します。ダイヤモンドディスクがない場合、歯のエナメル質を切るのは困難ですので、顎骨のみを切った後で、歯根膜の部分を切断して歯を除去します。
扁平上皮癌では顎骨は歯列弓に直交する方向で切り出します。この場合、前から3本ぐらい(中切歯、側切歯、犬歯)は放射状となり、次の2本(第一、第二小臼歯)でやや傾き、後ろ2本(第一、第二大臼歯)はほぼ前額断となります。
粘膜下腫瘍は全て前額断で切り出してもよいと思われます。

② 硬組織と軟組織を分離して切り出す場合
標本全体を脱灰すると、軟組織の染色性が低下します。それを避ける為に硬組織は軟組織と離し、別々に検索します。この際には硬組織と軟組織の位置関係を明記することが重要です。

リンパ節転移があったり(特に2個以上あるいは被膜外浸潤を伴う場合)、顕微鏡的切除断端陽性あるいは5mm以内、神経周囲浸潤、腫瘍の厚さが10mm以上の場合は放射線療法が行われることがあります。化学療法が併用されることもあります。

 

5. 肉眼像と切り出しの実際

舌癌

上顎歯肉癌(粘膜下腫瘍)