2. 腎盂・尿管・膀胱

1. 腎盂・尿管・膀胱の解剖

左右の腎臓で産生された尿は腎臓の内側にある腎乳頭、小腎杯、大腎杯、腎盂から尿管を経由し膀胱へ至ります。これらの臓器の構造はおおむね上皮、上皮下結合組織、筋層からなり、周囲を脂肪組織で囲まれる点で共通しています。
腎乳頭から(狭い意味での)腎盂までは「腎盂」としてまとめて呼ばれます。腎の内側に位置し、基本的に上皮、上皮下結合織、筋層からなり、その外側に腎盂周囲脂肪組織、腎実質、腎周囲脂肪組織、ゲロタGerota筋膜が存在します。ただし、腎乳頭に上皮下結合組織はなく、小腎杯の段階でも薄いです。
尿管は細い管で長さは22cmから30cmぐらいです。開くと粘膜に縦方向のひだが見られます。壁は上皮、上皮下結合組織、筋層からなり、周囲にリンパ管や静脈を含む脂肪組織が存在します。
膀胱は袋状の器官です。機能は尿を貯めることで、容量は平均500mlです。尿管がつながっている左右の尿管口から尿が入り、尿道から出て行きます。膀胱は三角錐の形をしています。三角錐の頂点は斜め上前を向いており、その周辺を頂部と呼びます。三角錐の上側の面が後壁です。頂部から後壁にかけては腹膜で覆われた部分があります。三角錐の下側を向いた左右の面が側壁で、その中でも前の方を前壁と呼びます。三角錐の底面は左右の尿管口と尿道を結んだ三角形の部分で、これが三角部です。尿道起始部の周囲で膀胱壁は骨盤に固定されます。この部分を頚部と呼びます。膀胱壁は上皮、上皮下結合組織、筋層(浅層、深層)からなります。膀胱の上皮下結合組織には組織学的に平滑筋細胞束が存在します。
男性では膀胱のすぐ下で尿道を取り巻くように前立腺が存在します。膀胱の後壁を覆う腹膜はデノビエDenonvillier(デノンビリエ)筋膜となって前立腺の後面まで及んでいます。女性では膀胱の後ろに子宮が存在します。
腎盂・尿管癌の所属リンパ節は腹部大動脈周囲、骨盤内、鼠径部リンパ節です。膀胱癌では骨盤内リンパ節の中でも外腸骨、内腸骨、総腸骨、閉鎖、正中仙骨、仙骨外側リンパ節が所属リンパ節となります。

 

2. 腎盂・尿管・膀胱癌の肉眼的分類(腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版)

腎盂・尿管・膀胱癌は多発や再発の頻度が比較的高く、尿を介して発癌性物質や癌細胞が広がることが原因として考えられます。

TX: 原発腫瘍の評価が不可能
T0: 原発腫瘍を認めない
Ta: 乳頭状非浸潤癌
Tis: 上皮内癌
T1: 粘膜上皮下結合織に浸潤する腫瘍

(腎盂・尿管癌)
腎盂の癌は尿管よりやや多く、尿管では下の部位ほど頻度は高くなります。
T2: 筋層に浸潤する腫瘍
T3: (腎盂)筋層をこえて腎盂周囲脂肪組織または腎実質に浸潤する腫瘍
(尿管)筋層をこえて尿管周囲脂肪組織に浸潤する腫瘍
T4: 隣接臓器または腎臓をこえて腎周囲脂肪組織に浸潤する腫瘍

(膀胱癌)
T2: 筋層に浸潤する腫瘍
T2a: 浅筋層に浸潤する腫瘍(内側1/2)
T2b: 深筋層に浸潤する腫瘍(外側1/2)
T3: 膀胱周囲組織に浸潤する腫瘍
T3a: 顕微鏡的
T3b: 肉眼的(膀胱外の腫瘤)
T4: 次のいずれかに浸潤する腫瘍 前立腺間質、精嚢、子宮、膣、骨盤壁、腹壁
T4a: 前立腺間質、精嚢、または子宮または膣に浸潤する腫瘍
T4b: 骨盤壁、または腹壁に浸潤する腫瘍

 

3. 腎盂・尿管・膀胱の検体

手術療法は主に筋層に浸潤している場合に行われますが、保存的治療で治らなかった場合や悪性度の高い場合にも行われることがあります。

1) 腎尿管全摘術
腎盂・尿管癌の場合の術式です。ゲロタ筋膜を含めて腎を摘出し、尿管と尿管口周囲の膀胱壁を1cmほど切除します。筋層に浸潤していれば腹部大動脈周囲リンパ節の他、傍下大静脈リンパ節や腎門部リンパ節を郭清します。

2) 膀胱全摘除術
膀胱癌の場合の術式です。筋層に浸潤していれば骨盤内リンパ節を郭清します。男性では通常、前立腺とその中を通る尿道の一部を同時に切除します。合併切除された前立腺には74%の検体で膀胱癌の前立腺浸潤あるいは前立腺癌が見られるとの報告があります。女性では通常、尿道を全て切除します。また、子宮と膣前壁も切除することで十分な後方断端を確保します。
術中迅速診断で尿管断端が陽性の場合、尿管が追加切除されます。再建できる限界まで切除した場合は断端陽性でも手術を終えます。その場合再発率は上がりますが、予後には影響しません。そのため、術中迅速診断に尿管断端を提出する意義については議論があります。

 

4. 腎尿管全摘標本の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
前方に腹膜で覆われた光沢のある部分を認めます。下方にはゲロタ筋膜の存在しない部分があります。腎動静脈、尿管の出ている腎門部が内側です。壁の薄い腎静脈は最も背側に位置します。また、尿管は下方に向かって走行します。

3) 計測と肉眼所見の記載
(1) 申込用紙によく目を通すと同時に、これまでの画像診断、病理診断の報告書に目を通しておくと、腫瘍の位置や広がりを推定する参考となります。わかりにくい場合は提出医に腫瘍の範囲をインクでマーキングしてもらうとよいでしょう。
(2) 通常泌尿器科医によって割が入れられています。割が入っていない場合は尿管から長いプローブを入れて、腫瘍の中心に向かって突き刺します。腎門部の反対側からプローブに沿って刃を入れると、腎洞と腫瘍の関係がよくわかる割面が出ます。次に尿管に腫瘍がある場合はできるだけ腫瘍を避けて尿管を開きます。
(3) 腫瘍の発生部位(尿管断端からの距離を測ります)と数を記載します。
(4) 腫瘍の大きさを測定します。
(5) 周囲粘膜の変化をよく観察します。
(6) 同時に切除された原発以外の臓器(腎盂・尿管・膀胱・尿道・前立腺)での腫瘍の合併の有無を調べます。

4) マーキング
腎盂と尿管の剥離断端にインクを塗ります。提出される検体で腎実質を越えていることは稀なのでゲロタ筋膜にインクを塗ることはありません。

5) サンプリング
(1) コンタミネーションを防ぐため、まず断端である尿管口周囲の膀胱壁を5mm幅で平行に切り、全て提出します。
(2) 腎門部にリンパ節がないことを確認します。腎門部の動静脈断端を作製します。
(3) 腎盂癌の場合には、腎周囲脂肪組織および副腎への浸潤の有無を確認の後、腎周囲脂肪組織および副腎を腎臓より外します。次に、腎盂粘膜に垂直になるよう冠状断にします。この際、腎実質への浸潤やその程度を明らかにするためその先進部が観察できるように注意します。
(4) 尿管癌の場合には、原則として尿管を輪切りにする横断する(長軸に直角の)方向に切り出します。尿管の周囲は剥離断端です。
(5) 腫瘍の中心部を通る切片および組織学的深達度を調べるのに必要な切片を切り出します。有茎性腫瘍の場合には茎を通る割面の組織標本を作製します。
(6) 腎盂・尿管癌は多発することがあります。腫瘍を思わせる隆起がないか確認します。また、上皮内癌を思わせる発赤部分や表面が不整な部分を探します。
(7) 腫瘍から離れた腎組織を提出します。皮質、髄質、小腎杯の入った固定の良い部分を1ブロック作製します。動脈硬化性腎症が約30%、糖尿病性腎症が約20%で認められると言われています。
(8) 副腎を探し、切除されていれば腫瘍の有無を確認します。腎細胞癌に比べると腎盂・尿管癌で副腎転移は稀ではありません。
(9) リンパ節が提出されていた場合は個数を数えます。膀胱癌と異なり、腎盂・尿管の癌ではリンパ節転移の程度を表すN因子は転移巣の大きさで分類されます。大きさが2cmをこえるリンパ節は割を入れて、転移を思わせる白色部分があればその長径を測定して下さい。転移の大きさが2cmをこえるとpN2, 6cmをこえるとpN3となります。

5. 膀胱全摘標本の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
尿道が下方です。頂部から後壁にかけて腹膜で覆われたなめらかで光沢のある部分があります。

3) 計測と肉眼所見の記載
(1) 術前治療が行われていることが多く、病変が肉眼的に不明瞭な場合もあります。申込用紙によく目を通すと同時に、これまでの画像診断、病理診断の報告書に目を通しておくと、腫瘍の位置や広がりを推定する参考となります。わかりにくい場合は提出医に腫瘍の範囲をインクでマーキングしてもらうとよいでしょう。
(2) 通常泌尿器科医によって開かれています。開かれていない場合は尿道からゾンデを入れ、ハサミで膀胱前壁の中心を通って頂部(あるいは腹膜が始まる部分)のあたりまで切り開きます。次に尿管から尿管口に向かってゾンデを入れます。尿管口にハサミを入れてゾンデに沿って尿管と膀胱壁を同時に切り開きます。
(3) 腫瘍の発生部位と数を記載します。
(4) 腫瘍の大きさを測定します。
(5) 周囲粘膜の変化をよく観察します。
(6) 同時に切除された原発以外の臓器(腎盂・尿管・膀胱・尿道・前立腺)での腫瘍の合併の有無を調べます。

4) マーキング
腹膜で覆われていない剥離面にインクでマーキングすることがあります。腹膜は断端ではありません。露出していても必ずしも体内に癌が残っているとは言えません。

5) サンプリング
(1) コンタミネーションを防ぐため、まず尿道断端、両側尿管断端を輪切りにして切片を作製します。断端陽性となる頻度は尿道断端に比べると、尿管断端の方が高いです。術中迅速に真の尿管断端が提出されていることがあります。
(2) 両尿管口を結ぶ線に平行で、主病変部の中心を通る線に割を入れます。さらに、その割から約5mm間隔の連続平行割面を作製して、腫瘍全体の割面を観察し、割面での腫瘍の大きさや深達度を記載します。T3bの診断には膀胱外組織への肉眼的腫瘍浸潤の確認が重要ですのでよく観察します。
(3) 割面を並べて撮影します。
(4) 膀胱周囲組織にリンパ節がないことを確認します。
(5) 腫瘍の最も深く浸潤した部分、腫瘍が浅層部(粘膜部)から浸潤部へ移行する部分、断端に最も近い部分、腫瘍と正常部との境界部を切り出します。
(6) 膀胱癌は多発することがありますので、腫瘍を思わせる出血部分、粒々状の隆起部分、潰瘍部分がないか探します。
(7) 肉眼的に腫瘍と認識される部位以外の粘膜に上皮内癌が存在することがあるため、非腫瘍部も切片にします。上皮内癌の好発する三角部、右側壁、左側壁、頂部からそれぞれ作製します。発赤部分や表面が不整な部分を優先します。また、扁平上皮化生と考えられる白色硬結部分があれば作製します。
(8) 前立腺にも5mm間隔で割を入れ肉眼的に観察します。根治的膀胱前立腺切除術の症例の40%で膀胱癌が前立腺に浸潤していると言われています。また、41%の症例で偶発的に前立腺癌の合併が認められるとされており、割面で前立腺癌を思わせる黄色均一の部分がないか探してください。著変がなければ中心領域と辺縁領域、両側精嚢を含む代表的な部分を作製します。男性生殖器系の「1.前立腺」もご参考にして下さい。
(9) 骨盤リンパ節が提出されている場合は個数を数えてください。摘出リンパ節数は予後に影響するとの報告があります。


腎盂・尿管・膀胱癌は切り出しの結果によって術後補助療法が行われることはあまりありません。補助療法として術前に化学放射線療法が行われることがあります。

 

6. 肉眼像と切り出しの実際

腎盂癌

膀胱癌