3. 乳腺

1. 乳腺の解剖

乳腺は乳汁を分泌する充実性の組織です。胸部に左右一対存在します。皮下脂肪組織に存在するアポクリン腺が変化したものと考えられています。乳腺を含む隆起を乳房と呼びます(下図:乳房の矢状断面)。乳房に関する解剖の詳細は文献によって異なりますが、表層から順に表皮、真皮、浅在筋膜浅葉、皮下脂肪組織、乳腺、乳腺後隙の脂肪組織と浅在筋膜深葉からなっていると信じられ、その下には大胸筋筋膜、大胸筋が存在すると言われています(皮下脂肪組織と乳腺後隙の脂肪組織を乳腺外脂肪と呼ぶことがあります)。したがって乳腺は浅在筋膜の中に存在する組織ということになります。ただし、浅在筋膜浅葉は組織学的には44%の検体で欠損し、存在している場合でも皮膚からの距離が0.2mm~4mmであるとの報告があり、切り出し時に肉眼で確認することは困難です。
乳腺は割面で腺組織および脂肪結合組織からなる白色の充実性部分として成人では認識できますが、加齢とともに黄色の脂肪組織が占める割合が多くなり、皮下脂肪組織との境界が不明瞭となります。
乳腺の腺組織は脂肪結合組織によって15~25の腺葉に分けられています。各腺葉からは主乳管が1本伸び、乳頭へ開口します。
立位では、靭帯と呼ばれる細い結合組織によって乳腺は吊り上げられていると言われています。クーパー靭帯は真皮から伸びており、乳房の上半分に多く認められます。また、浅在筋膜浅葉あるいは大胸筋筋膜からも乳腺に靭帯が伸びています。これらの靭帯や浅在筋膜は実際には脂肪組織を区切る結合組織に過ぎないとの考えもあります。
癌の位置は乳房をABCDEの5つの領域に分けて表されます(下図:乳房内病変の領域)。Aが内上部、Bが内下部、Cが外上部、Dが外下部、Eが乳輪部です。C領域が乳腺組織を最も多く含むため、乳癌の半分はここに発生します。また、腋窩部をC’、乳頭部をE’とします。

2. 乳癌の肉眼的分類(乳癌取扱い規約第17版より)

乳癌の肉眼的分類の特徴として切除検体で判断するのが困難な、乳房皮膚の浮腫および炎症性乳癌が含まれる点が挙げられます。この2つに関しては切除前に診断する必要があります。また、衛星皮膚結節は肉眼的に観察できるものに限られます。

TX: 原発腫瘍の評価が不可能
Tis: 乳管内癌
T0: 原発腫瘍を認めない
T1: 最大径が2cm以下の腫瘍
T2: 最大径が2cmをこえるが5cm以下の腫瘍
T3: 最大径が5cmをこえる腫瘍
T4: 腫瘍の大きさに関係なく、胸壁または皮膚への直接進展を示す腫瘍で、T4aからT4dまで表記される。
T4a: 胸壁への進展
T4b: 乳房皮膚の浮腫〔橙皮状皮膚(peau d’orange)を含む〕、潰瘍形成および同側乳房に限局した衛星皮膚結節
T4c: T4a, T4bの両者を有する
T4d: 炎症性乳癌(腫瘤を認めず、皮膚のびまん性発赤、浮腫、硬結を有するもの)

 

3. 乳癌の検体

固定を良くするため、少なくとも腫瘍部には割を入れておく必要があります。さらに、注射器でホルマリンを注入したり、表面だけ固定した後に幅1cmの割を入れて再度固定するという方法があります。ただし、注入は人工的な浮腫を形成する場合があります。
ER、PgR免疫染色のための標本の固定時間は8時間以上48時間以内とされています(乳癌取扱い規約第17版)。HER2免疫染色のための標本の固定時間は6時間以上48時間以内とされています(HER2検査ガイド第3版)。

1) 乳房温存術
乳腺の一部を切除する方法です。腫瘍摘出術(Tm)、円状切除術(Bp)、扇状切除術(Bq)があります。腫瘍の大きさは通常、3cm以下です。検体の周囲あるいは側方に大きな脂肪小葉が認められます。
腫瘤摘出術では腫瘍の周囲に数mmの断端をつけて切除しますが、日本では乳癌の治療としては行われません。ただし、診断と治療を兼ねた切除生検として行われることがあります。
乳房円状切除術では腫瘍の周囲に1~2cm程度の断端をつけて切除します。
乳房扇状切除術では乳頭を中心とする扇状に切除します。乳頭側への進展が疑われる場合に行います。
乳腺組織は肉眼的境界を越え、乳腺を支える靭帯内を広がっています。乳頭部では真皮内に見られることもあります。乳房円状切除術、扇状切除術の皮膚側は皮膚あるいは真皮直下の皮下脂肪織、大胸筋側は大胸筋筋膜まで切除されることが多いです。

2) 乳房切除術(Bt)
乳腺をほぼ全て切除する方法です。乳頭・乳輪と腫瘍直上の皮膚が切除され、それ以外は真皮直下の皮下脂肪織で切離が行われます。検体の皮膚側はやや細かい脂肪小葉で覆われています。深部は大胸筋筋膜を含めて切離されます。ただし、皮膚や乳頭・乳輪を残す手術も増加しており、その際は腫瘍直上で真皮に2~3mmの脂肪がつく程度の皮膚の剥離を行います。

通常、郭清されるリンパ節は「レベルI」と「レベルII」です。
乳腺の所属リンパ節には腋窩リンパ節、胸骨傍リンパ節、鎖骨上リンパ節があります。乳房内にリンパ節が見られた場合、乳癌取扱い第17版では腋窩リンパ節に含みます。腋窩リンパ節は小胸筋より外側をレベルI、内側をレベルIIIとしてその間の小胸筋の範囲はレベルIIとします。リンパ液の大部分はレベルIの中でも1-2個のリンパ節にまず流入します。このリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。センチネルリンパ節に転移がなければ多くの場合、残りの腋窩リンパ節にも転移はありません。そのため、術前にリンパ節転移が明らかでない場合は、センチネルリンパ節を調べ、転移が見られた場合に郭清を考慮します。
リンパ節転移はレベルIからII、IIIと順番に進んでいくと考えられているため、腋窩リンパ節郭清の多くはレベルIとレベルIIまで行われます。

 

4. 乳房温存手術検体の切り出し

乳管内を進展し周囲に広がる癌細胞は肉眼的に観察することが困難なことが多く、乳房温存術の検体は多数の切片を作成し組織学的に断端を確認することが一般的です。乳管内進展は乳頭側に向かって起こることが多いとの研究があります。

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション
(1) 肉眼的にオリエンテーションをつけるのが困難なため、最低でも2箇所(乳頭直下と腋窩側など)に目印(縫合糸など)を外科医につけてもらう必要があります。切り出しの前にマンモグラフィやMRI、超音波の報告書に目を通しておくと、腫瘍の広がりを推定する参考となります。検体の放射線画像およびその読影所見が添付されていることがあります。
(2) 術中迅速診断で断端が陽性であった場合は追加切除が行われます。最初の検体と追加切除検体のオリエンテーションは執刀医に問い合わせましょう。追加切除検体は断端と思われる部分にインクを塗り、放射状に切り出します

3) 計測と肉眼所見の記載
腫瘍の大きさを計測します。

4) マーキング
全体をインクで塗ります。脂肪小葉の隙間に染み込んで断端が偽陽性にならないよう適量を用います。

5) サンプリング
(1) 乳頭と腫瘍を結ぶ線に「直角」に約5mm間隔で割を入れます。通常、外科医が腫瘍のある部分に割を入れています。浸潤癌の領域は指で押すと大体の大きさがわかるため、最も表面に近い部分に割を入れるようにします。
(2) 腫瘍径の最大の割面を含む面で腫瘍の大きさを計測します。複数の腫瘍がある場合はそれぞれ測定します。肉眼的に別の腫瘍でも距離が5mmより近い場合は連続している可能性が高いため、一つの腫瘍としての大きさも計測します(組織学的な確認が必要です)。
(3) 写真撮影を行います。
(4) 検体を全て切片として作製します。
(5) 外科医によって別に提出されたリンパ節の個数を数えます。転移した腫瘍の大きさが2mm以上の場合は明らかに予後に影響します。2mm以上の転移を検出するには少なくとも1個のリンパ節を2mmにスライスし(1つのブロックとして)提出する必要がありますが、困難です。実際は厚さ0.5cm未満のリンパ節は一括で1つのブロックとし、厚さ0.5cmから1cmの大きさのリンパ節は半分にして、1つのリンパ節を1つのブロックとすることが多いです。

 

5. 乳房切除検体の切り出し

1) 名前とIDの確認

2)  オリエンテーション
乳腺組織は腋窩まで伸びているため、乳房切除検体では上外側に腋窩部と呼ばれる突出部を有します。

3) 計測と肉眼所見の記載
腫瘍の大きさを計測します。
皮膚に潰瘍あるいは衛星結節が存在するとT4となります(衛星皮膚結節は直接浸潤ではなく、脈管浸潤などによる乳房内転移を指します)。検体を裏返すと大胸筋膜が欠損していたり、腫瘍直下に少量の大胸筋をつけて切除していることがありますが、浸潤がないか確認しましょう。ただし、大胸筋と小胸筋への浸潤は胸壁浸潤(T4)ではありません(乳癌では胸壁は肋間筋、肋骨、前鋸筋を指します)。

4) マーキング
断端を切り出す場合はインクを塗ると切片上でもわかりやすくなります。オリエンテーションがわかるように皮膚側の上半分と下半分、深部側を3色で塗り分けることがあります。

5) サンプリング
(1) 指で押してみて腋窩部を中心にリンパ節がないか探します。米対がん合同委員会(AJCC)のTNM分類では腋窩脂肪織にあるリンパ節構造のない腫瘍結節もリンパ節転移陽性として扱います。
(2) 乳頭と腫瘍を結ぶ線に「平行」で腫瘍の中心を通る線に割を入れます。さらにその線に平行に割を5mm~1cm間隔でいれます。通常、外科医が腫瘍のある部分に割を入れています。ただし、浸潤癌で21%は多発しているとの報告があるため割面をよく観察します。
(3) 腫瘍径が最大の割面の写真をとります。
(4) 腫瘍径が最大の割面を切片として全てあるいは代表的な部分を作製します。
(5) 割面にリンパ節が見られたら提出します。乳房内リンパ節が見られる部位としてはC領域が多いです。
(6) 皮膚浸潤があれば皮膚の断端を切り出します。その他の断端を切り出すか否か、どの部分を切り出すかについては教科書によって異なります。
(7) 切り出す場合は、まず皮膚側断端および深部断端に最も近い部分を作製します。断端陽性の場合に局所再発率が上昇するかについては議論があります。
(8) 日本においては、断端として最大割面の両端の2箇所あるいはさらにそれに直交する両端を加えた4箇所を切り出すことがあります。皮膚温存乳房切除術では文献により3割から6割程度の検体で皮弁に乳腺組織が残存していると言われています。端を切り出すことで乳腺組織の広がりを確認することはできますが、予後への影響は不明です。
(9) その他、通常は乳頭部から1ブロック作製します。また、乳房のその他の3つの領域(A領域ならB、C、D領域)からそれぞれ1ブロックずつ作製することもあります。ただし、乳頭部や乳房のその他の領域を切り出すことについてその意義を否定する文献もあります。
(10) 外科医によって別に提出されたリンパ節の個数を数えます。転移した腫瘍の大きさが2mm以上の場合は明らかに予後に影響します。2mm以上の転移を検出するには少なくともリンパ節を2mmにスライスし(1つのブロックとして)提出する必要がありますが、困難です。実際は厚さ0.5cm未満のリンパ節は一括で1つのブロックとし、厚さ0.5cmから1cmの大きさのリンパ節は半分にして、1つのリンパ節を1つのブロックとすることが多いです。

 

断端陽性の場合は追加切除が行われることがあります。
放射線療法が考慮されるのは乳房温存術でほぼ全例、乳房切除術を行った場合はリンパ節転移があったり、腫瘍の大きさが5cm以上、断端が1mm以下の場合です。
化学療法はリンパ節転移があったり、腫瘍の大きさが0.6cm以上の場合に検討されます。管状癌や粘液癌は比較的予後良好なため、化学療法はリンパ節転移があった際に行われます。
免疫染色の結果、ホルモン受容体が陽性であれば内分泌療法が、HER2受容体が陽性であればトラスツズマブの投与が考慮されます。

 

6. 肉眼像と切り出しの実際

乳房円状切除術(左C領域)

乳房切除術(左)