4. 子宮内容物・胎盤

1. 胎盤の解剖

胎盤は臍帯を介して母親と胎児をつなぐ円板状の構造物です。主な機能は母親の血液と胎児の血液の間で、ガス交換や代謝産物の交換を行うことです。hCGなどのホルモンを産生する機能もあります。母親の組織である脱落膜と胎児の組織である絨毛膜、羊膜の三層からなっています。脱落膜は子宮内膜が変化したものです。分娩の際には脱落膜が二層に裂け胎盤が子宮壁からはがれます。娩出された胎盤には子宮側のごつごつした面に薄く脱落膜が存在していて、割面では絨毛膜に比べ白色調に認められます。胎児由来の絨毛膜は絨毛からなっています。絨毛は胎児側から伸びる多数の幹が枝分かれして出来た樹枝状の構造をしています。絨毛と絨毛の間には母親の血液が充満しているため、割面は赤色です。羊膜は大変薄くはがれやすい組織で胎児側を覆っています。
子宮側のごつごつした面には10~40の隆起が認められ、それぞれを胎盤葉と呼びます。一つの胎盤葉は2-3本の絨毛幹を含んでいます。
胎盤の周りは薄い膜が伸びていますが、この部分を胎盤外卵膜あるいは単に卵膜といいます。この薄い膜の中に本来の子宮腔があったのですが押しつぶされてわからなくなっています。胎盤の胎児側には臍帯が付着しています。付着部は通常中心からややずれています。
胎盤は妊娠12~15週の間に完成します。8~11週では胎児を入れている羊膜腔は全周を絨毛で囲まれています。また、絨毛と絨毛の間に母親の血液は来ていません。


胎児の生存が確認できない状態を流産といい、12週未満ではその原因の多くが染色体異常と言われています。中でも本来1本ずつしかない父親由来の染色体が2本(あるいは4本)ずつ存在する奇形として胞状奇胎があります。胞状奇胎は他の染色体異常あるいは染色体異常のない妊娠に比べて、子宮壁や血管に侵入して出血が起きたり(全胞状奇胎で15-20%、部分胞状奇胎で0.5%-5%)、絨毛癌が発生したりする頻度が高いとされています(全胞状奇胎で2-3%、部分胞状奇胎ではほぼ0%)。

2. 子宮内容物・胎盤の検体

検体としては子宮内除去術によって摘出された妊娠12週未満の子宮内容物と出産に伴って排出される胎盤があります。妊娠12週以降の胎児は病理解剖の対象となります。

1) 子宮内容除去術
適応は胎盤遺残、胞状奇胎、12週未満の人工妊娠中絶、感染を伴う流産です。進行流産(出血するなど内容物が排出されはじめた状態)、不全流産(内容物が一部残っている状態)、稽留流産(内容物が全て残っている状態)でも行われることがあります。方法としては胎盤鉗子法(狭義のD&C)と吸引法の2種類があります。両者を合わせてD&Cと呼ぶこともあります。絨毛、胎嚢、胎芽あるいは胎児が一塊となって摘出されていれば胎盤鉗子法が用いられた可能性があります。

2) 出産
出産において自然現象として胎盤が排出されます。全ての胎盤が切り出しの対象となるわけではありません。切り出しの対象としては主に胎児側の理由(感染症の疑いなど)と母親側の理由(癌患者など)に大きく分けられます。胎児および母親で血液を介して広がる疾患を調べることができます。

地方自治体によっては、胎盤や12週未満の胎児組織を「胞衣(えな)」と呼び、廃棄する場合は、感染性廃棄物として扱わず、火葬にするよう条例で定めています。ご確認ください。

こちら(厚生労働省HP)もご参考にしてください。

 

3. 胎盤の肉眼的分類

臍帯の付着場所:胎盤の中心から外側に向かって、中心付着(中心に付着)、側方付着(中心からずれて付着)、辺縁付着(胎盤の端に付着)、卵膜付着(胎盤の外に付着)の4種類に分けられます。卵膜付着では血管が損傷しやすいと言われています。より客観的に胎盤の中心(あるいは辺縁)から付着部までの距離を測定した報告もありますが、胎盤の組織学的変化との関連は明らかでありません。
卵膜の付着場所:卵膜は通常胎盤のまわりに付着していて、これを辺縁胎盤と呼びます。胎盤の中心よりにせり上がって付着していると画縁胎盤になります。中心よりに付着しなおかつ付着部が盛り上がっていると周辺胎盤です。周辺胎盤では折り帰りの部位が死腔となって感染巣になることがあるという説があります。

 

4. 子宮内容物の切り出し

1) 名前とIDの確認
妊娠週数の記載がなければ主治医に確認します。

2) オリエンテーション
通常、検体には大量の血液が含まれます。子宮外妊娠が疑われた場合は血液も含め提出します。胞状奇胎の疑いであれば、固定前に検体を生理食塩水に浮遊させ実体顕微鏡で観察すると嚢胞化絨毛がわかることがあります。ただし、染色体検査に提出する場合は滅菌状態で扱う必要があります。

3) 計測と肉眼所見の記載
(1) 妊娠産物である胎児(胎芽)、胎嚢、絨毛が存在するか調べます。
(2) 胎児(胎芽)が存在した場合は頭から臀部までの長さを測ります。
(3) 嚢胞化絨毛の有無、大きさ、絨毛に占める割合を観察します。胞状奇胎の嚢胞化絨毛は妊娠12週を越えると短径2mm以上のものが目立つようになります。通常はより早期に超音波検査で異常が見つかり子宮内容除去術を受けるため、嚢胞化絨毛の大きさのみで診断するのは困難な場合があります。絨毛性疾患取扱い規約改訂第3版では胞状奇胎の診断は組織学的所見に基づくよう記載されています。

4) マーキング
通常、子宮内容物をマーキングすることはありません。

5) サンプリング
(1) 絨毛が明らかに見られる場合は1ブロックのみ作製します。
(2) 2mm以上の嚢胞化絨毛が見られた場合は写真を撮り、5~10ブロックを作製します。
(3) 胎児(胎芽)や胎嚢が存在した場合は写真を撮り、ブロックにします。
(4) 検体中に胎児(胎芽)、胎嚢、絨毛のいずれも肉眼的に確認できない場合で、子宮外妊娠の疑い(超音波検査で子宮内に胎嚢が確認できないなど)があれば、血液も含め検体を全てブロックにします。疑いがない場合は数ブロックを提出し、検鏡後に追加します。

子宮外妊娠の疑いがあり、検体中に妊娠産物が認められない場合は腹腔鏡手術が行われることがあります。
全胞状奇胎の場合は術後の血清hCGの数値などに基づいて、再度の子宮内容除去術や化学療法、子宮全摘出術が検討されます。

 

5. 胎盤の切り出し

1) 名前とIDの確認
妊娠週数、経膣分娩か帝王切開かの記載がなければ産科医に確認します。

2) オリエンテーション

3) 計測と肉眼所見の記載
計測する項目が多いため、ワークシートを作製して印刷しておくと便利です。必要な項目に関しては産科医ともご相談ください。

(臍帯)
潰瘍や結び目、線状がないか確認します。
臍帯の長さ:通常32cmより上で100cm未満です。実際は児に数cm残っています。極端な場合以外は重要ではありません。
捻転数:10cmあたり1周未満は過少捻転、10cmあたり3周より上は過捻転です。
割面:2本の円形の臍帯動脈とやや内腔の広い1本の臍帯静脈が認められます。

(胎盤)
重量:正期産で430~650gです。測定する意義を疑問視する文献もあります(Pathology of the Placenta, 3rd edition. Saunders, 2007, p559-561)
形態:円板状です。欠損があれば子宮内に遺残している可能性があります。
大きさ:長径と短径、中央部の厚さを測定します。重量に比べるとあまり重要ではありません。
羊膜面:黄色あるいは不透明な場合は絨毛膜炎の可能性があります。緑色の場合は絨毛膜炎の他、胎便が考えられます(分娩中に胎便を吸引していると胎便吸引症候群を起こす可能性があります)。白色の小隆起が多数見られる場合、羊膜結節や扁平上皮化生の場合があります。
母体面:分娩時に付着した暗赤色の凝血が認められることがあります。早期胎盤剥離などによる出血であれば割面で胎盤がへこんでいます。
割面:梗塞あるいはフィブリン沈着を疑う白色調の部分があれば全体のどの程度の面積を占めているか見積もります。梗塞は時期が早いと赤色調の場合もあります。胎盤内絨毛癌は梗塞あるいはフィブリン沈着と類似した病変であるため、切り出して確認する必要があります(広範囲に散在する5mm以下の白色結節として認められることもあります)。

(卵膜)
肉眼所見は胎盤羊膜面と同様です。
破膜部から胎盤辺縁までの距離:破膜部とは子宮開口部に当たる部分です。破膜前に帝王切開を行うと存在しません。破膜部が胎盤の近傍にある場合は低在胎盤です(子宮開口部が胎盤にかかっていれば前置胎盤であり、多量の出血が起こることがあります)。上行性感染による急性絨毛膜炎は破膜部に限局することがあります。

4) マーキング
通常、胎盤検体をマーキングすることはありません。

5) サンプリング
(1) 破膜部から胎盤辺縁まで卵膜を短冊状に切り取り、巻き取って輪切りにします。着色があったり、不透明な部分があればそこからも切り出します。採取部位の数に比例して絨毛膜羊膜炎の検出率が上がるという報告があります。
(2) 臍帯は付着部から1/3の部分と 2/3の部分の2箇所をブロックにします。
(3) 胎盤を0.5cmあるいは1cm間隔で平行に切ります。赤色調あるいは白色調の病変と考えられる部分があれば、全層をブロックにします。比較するための正常部位を中央部と辺縁部からブロックにします。

絨毛膜羊膜炎の確定診断は病理学的に行われますが、通常は臨床診断に基づいて治療が行われています。
胎盤内絨毛癌が認められた場合は血中hCGの数値などに基づいて化学療法が検討されます。新生児に転移する場合があるので、新生児も血中hCGが測定されます。
癌患者で胎盤に遠隔転移があれば通常、進行度IV期として扱われます。

 

6. 肉眼像と切り出しの実際
(写真は草津総合病院 山本喜啓先生と近江八幡市立総合医療センター  細川洋平先生のご厚意による)