1. 食道

1. 食道の解剖

食道は管状の臓器です。食道入口部から食道胃接合部までをいいます。食道胃接合部(esophagogastric junction: EGJ)は胃のひだ(雛壁)が始まる部分に当たります。組織学的な扁平-円柱上皮移行部(squamocolumnar junction: SCJ)はEGJに一致しない場合が多く、遠位側に数cm離れた部位に存在します。肉眼的に食道粘膜を覆う扁平上皮は白色調、胃粘膜を覆う円柱上皮は赤色調(固定後は褐色調)を呈しています。食道は頚部食道、胸部食道、腹部食道に区分されます。割面では粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜(内輪筋層、外縦筋層)からなる層構造を示します。胃と異なり漿膜を欠きます。粘膜は白色で境界明瞭、粘膜下層は透明な褐色、筋層は内輪筋層が褐色に、外縦筋層が白色調に見えます。

食道の区分
頚部食道(Ce) cervical esophagus: 食道入口部より胸骨上縁まで
胸部食道(Te) thoracic esophagus: 胸骨上縁から食道裂孔上縁まで
胸部上部食道(Ut) upper thoracic esophagus: 胸骨上縁より気管分岐部下縁まで
胸部中部食道(Mt) middle thoracic esophagus: 気管分岐部下縁より食道胃接合部までを2等分した上半分
胸部下部食道(Lt) lower thoracic esophagus: 気管分岐部下縁より食道胃接合部までを2等分した下半分(胸腔内)
腹部食道(Ae) abdominal esophagus: 腹腔内食道(食道裂孔上縁から食道胃接合部まで)

2. 食道癌の肉眼的分類

癌の壁深達度が肉眼的に粘膜下層までと推定される病変を「表在型」とし、固有筋層以深に及んでいると推定される病変を「進行型」とします。「表在型」は0型とし0-Ⅰ,0-Ⅱ,0-Ⅲに亜分類します。「進行型」は1~4型の基本型の いずれかに分類します。0~4型ないしその組み合わせで表現できない病変を5型とします。EGJの上下2cmに中心を持つ癌も食道胃接合部癌として食道癌取扱い規約(第10版補訂版)に従って分類されます。

病型分類
0型 表在型: 癌の直接浸潤が粘膜下層までにとどまると推定される病変
1型 隆起型: 限局性隆起性病変
2型 潰瘍限局型: 潰瘍形成性病変で腫瘍先進部の境界が明瞭なもの
3型 潰瘍浸潤型: 潰瘍形成性病変で腫瘍先進部の境界が一部あるいは全周で不明瞭なもの
4型 びまん浸潤型: 一般に潰瘍および隆起が目立たず壁内浸潤が広範囲なもの。なお潰瘍または隆起製病変が存在しても、浸潤部が著しく広範であるものもこの型に属する。
5型 分類不能型: 基本型0~4のいずれにも帰属し得ない複雑な病型を示す病変。
5a 未治療
5b 治療後
表在型(0型)の亜分類
0-Ⅰ型 表在隆起型: 丈の高い隆起性病変で、その大きさ、高さ、基底部のくびれ具合から表在型と推定される癌
0-Ⅰp 有茎性: 有茎性あるいは亜有茎性で基底部の広さより高さが目立つ病
0-Ⅰs 無茎性(広基性): 無茎で、高さよりも基底部の広さが目立つ病変
0-Ⅱ型 表面型: 明らかな隆起や陥凹がない病変
0-Ⅱa 表面隆起型: ごく軽度に隆起している病変
0-Ⅱb 表面平坦型: 肉眼で隆起や陥凹が認識できない病変。ヨード染色で癌の存在が認識できることが多い。
0-Ⅱc 表面陥凹型: ごく浅い軽度の陥凹を示す病変で、発赤を伴う場合が多い。
0-Ⅲ 表在位陥凹型: Ⅱcより深い潰瘍形成性の陥凹病変でその陥凹底が粘膜筋板を越えると推定される病変
(食道癌取扱い規約 第10版補訂版)

3. 壁深達度(食道壁のどの層まで達しているか)

癌腫の壁深達度が判定不可能
T0: 原発巣としての癌腫を認めない
T1a: 癌腫が粘膜内にとどまる病変
T1a-EP: 癌腫が粘膜上皮内にとどまる病変
T1a-LPM: 癌腫が粘膜固有層にとどまる病変
T1a-MM: 癌腫が粘膜筋板に達する病変
T1b: 癌腫が粘膜下層にとどまる病変(SM)
SM1: 粘膜下層を3等分し、上1/3にとどまる病変
SM2: 粘膜下層を3等分し、中1/3にとどまる病変
SM3: 粘膜下層を3等分し、下1/3にとどまる病変
T2: 癌腫が固有筋層にとどまる病変(MP)
T3: 癌腫が食道外膜に浸潤している病変(AD)
T4: 癌腫が食道周囲臓器に浸潤している病変(AI)
(食道癌取扱い規約 第10版補訂版)

4. 食道の切り出し

1) 名前とIDの確認
2) オリエンテーション
提出医により指示されたオリエンテーションを確認します。遠位側に付着した胃を指標にします。肺やリンパ節が検体の外膜面に付着して含まれている場合もあります。
3) 計測と肉眼所見の記載
腫瘍の大きさ(最大長径とそれに直交する最大横径)、腫瘍と両側切除断端までの距離を記録します。表在癌は肉眼的に広がりがわからないことがあります。ルゴールを塗布すると癌でない部分が褐色に染まります。また、割面で固有筋層に浸潤しているように見えても線維化のみのことがあります。指で押して動かなければ固有筋層に浸潤している可能性が高くなります。術前化学療法あるいは放射線療法後では肉眼的に正常粘膜でおおわれていたり、逆に非腫瘍部にびらんが広がっていたりします。わかりにくい場合は提出医に腫瘍の範囲をインクでマーキングしてもらうとよいでしょう。EGJを越えて褐色調の領域が食道壁内へ進展している場合は胃液の逆流による上皮の変化(バレット食道)を考えます。
胃には手術器具(サーキュラーステープラー)の挿入口が存在することがありますので、穿孔と間違えないようにして下さい。
4) マーキング
食道には漿膜が存在せず、食道周囲結合織に露出があれば取り残しが存在する可能性があるので注意深く観察します。腫瘍の深達度が外膜近傍に及ぶ場合には剥離断端をインクにてマーキングします。口側および肛門側断端は病変から最も近い距離を測定し切り出します。
5) サンプリング
(1) 最初に断端を切り取るとコンタミネーションの可能性を低くするとことができます。
(2) 口側断端は横断面(管周性)の標本を作製しますが、別に提出されていることがあります。
(3) 切り出しは原則として長軸に平行に割を入れ、表在型では病巣部すべての標本を作製します。進行型では最も深く浸潤した割面の標本を作製します。病変によっては十字に切り出すこともあります。
(4)  外膜あるいは割面にリンパ節が認められたら作製します。壁外の脂肪織内に癌巣が認められた場合、リンパ節構造がなくても食道癌取扱い規約(第10版補訂版)では部位と個数の記載が必要ですので作製します。
(5)  主病変以外のルゴール不染部、隆起性病変、非腫瘍部(バレット食道、発赤や潰瘍)を切出します。
(6) 別ビンでリンパ節が提出されていた場合は個数を数えてください。

補助療法として術前に化学療法が行われることがあります。術前未治療の場合は、リンパ節転移陽性の場合に術後化学療法が考慮されることがあります。断端が陽性の場合に放射線療法や化学療法が行われることがあるようです。

5. 肉眼像と切り出しの実際

表在型 0型Ⅱb+Ⅱc

多発食道癌 2型/0型-Ⅱa+Ⅱb

バレット腺癌