3. 咽頭・喉頭 (頭頚部)

1. 咽頭・喉頭の解剖

咽頭・喉頭を含む頭頚部は複雑な検体が多く、オリエンテーションや断端がわからなければ耳鼻科医に来て頂いてください。

咽頭は口腔、鼻腔と食道、喉頭をつなぐ管状臓器です。咽頭は上咽頭、中咽頭、下咽頭に分けられます。上咽頭は頭蓋底から硬口蓋と軟口蓋の移行部まで、中咽頭は硬口蓋と軟口蓋移行部から舌骨上縁(喉頭蓋谷底部)まで、下咽頭は舌骨上縁(喉頭蓋谷底部)から輪状軟骨下縁の高さまでの範囲に当たります。

喉頭は気管へ続く管状臓器です。喉頭蓋舌面から輪状軟骨下縁に当たります。咽頭から空気が出入りします。食事中は食物が入るのを防ぐため喉頭蓋が後ろへ折れ曲がり蓋をしています。
発声器官でもあり、声門と呼ばれるひだが存在します。声門のすぐ上には喉頭室と呼ばれるくぼみがあり、声門上に癌が発生しても声門へ進展しにくくなっています。
喉頭は喉頭蓋、甲状軟骨、輪状軟骨と2つの被裂軟骨で囲まれます。これらの軟骨は喉頭癌が周囲に広がるのを防ぐ障壁となります(石灰化すると障壁としての機能は低下します)。ただし、声門および仮声帯の周囲には傍声帯間隙と呼ばれる柔らかい組織で出来た部分があり、癌はこの部分を介して上下方向へ広がったり、軟骨と軟骨の隙間(輪状甲状間隙)から周囲の筋組織や甲状腺へ広がったりすることがあります。また、喉頭蓋の中心には血管やリンパ管の通る小孔に富む軟骨があり、そこから喉頭蓋前間隙と呼ばれる同様に柔らかい組織へ進展します。喉頭蓋前間隙はリンパ管に富むため、リンパ節転移を起こす頻度が高くなります。喉頭蓋前間隙は左右の傍声帯間隙とつながっています。

2. 咽頭・喉頭の検体

1) 上咽頭癌の標準治療は放射線治療ですので検体が出ることはありません。中咽頭癌(扁桃癌など)では局所切除が行われます。下咽頭癌では下咽頭の部分あるいは全切除を行います。咽頭がなくなったり、神経が麻痺することで誤嚥が起きやすくなるため、喉頭は癌が及んでいなくても切除されます。
2)  喉頭癌では喉頭摘出術を行います。縦切りにする場合、摘出標本を後側で開き、ステンレスの針金などで強く引っ張り、できるだけ平坦にしてから固定すると切り出しやすくなります。それでも壁が比較的厚いため、粘膜に垂直に切るには少し刃を傾ける必要があります。
3) 軟骨が骨化していたり、舌骨が存在するため、うまくメスで切れないことがあります。まず、軟部を鋭いメスなどで切った後で、硬い部分をナイフなどで切断しましょう。硬い組織は薄切できないので脱灰を行いますが、染色性は低下します。組織型の判定が重要な場合は、腫瘍の一部あるいは浸潤のないと思われる硬組織から腫瘍部を剥離し、標本を作製しましょう(頭頸部癌取扱い規約改訂第5版より)。その後で残りの検体全てを10%ギ酸など脱灰液に漬けて軽く脱灰し、切り出すという方法もあります。

3. 咽頭・喉頭の肉眼分類(頭頚部癌取扱い規約改訂第5版)

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内癌

1) 咽頭癌

(中咽頭癌)

T1 最大径が2cm以下の腫瘍
T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3 最大径が4cmをこえる腫瘍、または喉頭蓋舌面へ進展する腫瘍
T4a 喉頭、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、内側翼突筋、硬口蓋、および下顎骨のいずれかに浸潤する腫瘍
T4b 外側翼突筋、翼状突起、上咽頭側壁、頭蓋底のいずれかに浸潤する腫瘍、または頚動脈を全周性に取り囲む腫瘍

(下咽頭癌)
亜部位として梨状陥凹、輪状後部、後壁に分けます。梨状陥凹は喉頭蓋が気道に蓋をしている時に食物が通るくぼみです。梨状陥凹癌が頻度および手術検体として最も多いです。

T1 下咽頭の1亜部位に限局し、および/または最大径が2cm以下の腫瘍
T2 片側喉頭の固定がなく、下咽頭の1亜部位をこえるか、隣接部位に浸潤する腫瘍、
または片側喉頭の固定がなく、最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍
T3 最大径が4cmをこえるか、または片側喉頭の固定、または食道へ進展する腫瘍
T4a 甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、甲状腺、食道、頚部正中軟部組織*のいずれかに浸潤する腫瘍
T4b 椎前筋膜、頚動脈を全周性に取り囲む腫瘍、または縦隔に浸潤する腫瘍
*頚部正中軟部組織には前頚筋群および皮下脂肪組織が含まれる。

2) 喉頭癌
喉頭癌は声門上部癌、声門癌、声門下部癌に分けます。手術検体として多いのは声門癌です。声門下癌は少ないです。

(声門上部癌)
亜部位として舌骨上喉頭蓋、被裂喉頭蓋ヒダ、被裂、舌骨下喉頭蓋、仮声帯に分けます。

T1 声帯運動が正常で、声門上部の1亜部位に限局する腫瘍
T2 喉頭の固定がなく、声門上部の他の亜部位、声門または声門上部の外側域(たとえば舌根粘膜、喉頭蓋谷、梨状陥凹の内壁など)の粘膜に浸潤する腫瘍
T3 声帯が固定し喉頭に限局するもの、および/または輪状後部、喉頭蓋前間隙に浸潤する腫瘍、傍声帯間隙浸潤、および/または甲状軟骨の内側に浸潤する腫瘍
T4a 甲状軟骨を破って浸潤する腫瘍、および/または喉頭外、すなわち気管、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)を含む頚部軟部組織、前頚筋群、甲状腺、食道に浸潤する腫瘍
T4b 椎前間隙に浸潤する腫瘍、頚動脈を全周性に取り囲む腫瘍、縦隔に浸潤する腫瘍

(声門癌)
T1 声帯運動が正常で、(一側)声帯に限局する腫瘍(前または後連合に達してもよい)
T1a 一側声帯に限局する腫瘍
T1b 両側声帯に浸潤する腫瘍
T2 声門上部、および/または声門下部に進展するもの、および/または声帯運動の制限を伴う腫瘍
T3 声帯が固定し喉頭内に限局する腫瘍、および/または傍声帯間隙に浸潤する腫瘍、および/または甲状軟骨の内側に浸潤する腫瘍
T4a 甲状軟骨の外側を破って浸潤する腫瘍、および/または喉頭外、すなわち気管、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)を含む頚部軟部組織、前頚筋群、甲状腺、食道に浸潤する腫瘍
T4b 椎前間隙に浸潤する腫瘍、頚動脈を全周性に取り囲む腫瘍、縦隔に浸潤する腫瘍

(声門下部癌)
T1 声門下部に限局する腫瘍
T2 声帯に進展し、その運動が正常か制限されている腫瘍
T3 声帯が固定し、喉頭内に限局する腫瘍
T4a 輪状軟骨あるいは甲状軟骨に浸潤する腫瘍、および/または喉頭外、すなわち気管、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)を含む頚部軟部組織、前頚筋群、甲状腺、食道に浸潤する腫瘍
T4b 椎前間隙に浸潤する腫瘍、頚動脈を全周性に取り囲む腫瘍、縦隔に浸潤する腫瘍

4. 咽頭・喉頭の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション

3) 計測と肉眼所見の記載

(1) 原発巣が下咽頭か喉頭かをよく確認して下さい。
(2) 断端からの距離を測定します。浸潤癌、上皮内癌、高度異形成が断端から5mm以内に達していると再発の可能性が上がります。
(3) 腫瘍径を測定します。中・下咽頭癌のT分類では腫瘍径が重要となります。
(4) 主病変以外に角化型異形成を示唆する白色肥厚部が粘膜にないか調べます。

4) マーキング

粘膜以外の部分は全て断端ですのでインクを塗ります。

5) サンプリング

咽頭、喉頭いずれも所属リンパ節は頚部リンパ節です。頭頚部癌取扱い規約第5版では頚部リンパ節はオトガイ下リンパ節、顎下リンパ節、前頚部リンパ節(喉頭前リンパ節、気管傍リンパ節など)、側頚リンパ節(副神経リンパ節、鎖骨上窩リンパ節、内深頚リンパ節など)からなります。
内深頚リンパ節など、郭清されたリンパ節が脂肪に埋まった状態で提出された場合、はさみでひとつひとつ取り出すとリンパ節の個数がわかります。リンパ節転移の有無は術後補助療法を検討する上で重要となりますので全て探し出して提出してください。辺縁が不明瞭となった白色結節は、リンパ節に転移した腫瘍が被膜を破り、周囲結合織に浸潤している可能性があります(被膜外浸潤)。これも術後補助療法を検討する上で重要な所見ですので周囲結合織ごと切り取ってください。咽頭・喉頭の癌ではリンパ節転移の程度を表すN因子は転移巣の大きさで分類されます。大きさが3cmをこえるリンパ節は割を入れて、転移を思わせる白色部分があればその長径を測定して下さい。転移の大きさが3cmをこえるとpN2, 6cmをこえるとpN3となります。

(中咽頭癌)
十分な断端がとれないことがありますので、平行に割を入れて全て提出してください。

(下咽頭癌)
(1) 亜部位が後壁、梨状陥凹、輪状口部のいずれであるかを確認します。下咽頭癌と診断されていても実際は喉頭癌である場合もあります。
(2) 上下を縦切りにして中央部を輪切りにします。あるいは縦切りにします。写真を撮ります。
(3) 断端を提出します。断端はいずれも腫瘍から最も近い部分を切り出して下さい。
下咽頭全切除術では咽頭が筒状に切除されます。咽頭の断端として中咽頭(上方)、食道(下方)断端が存在します。下咽頭部分切除術では咽頭後壁は切除されないため、検体は大きな管の一部を切りとったようになります。上下の断端に加え、左右の側方断端が存在します。側方断端は上皮断端が陽性のことがあります。
前方の断端は喉頭蓋舌面と両側の咽頭喉頭蓋ヒダです。梨状陥凹癌では咽頭喉頭蓋ヒダで上皮断端が陽性となることがあります。気管断端も提出します(距離が離れていれば輪切りにします)。
(4) リンパ節を探し、存在すれば提出します。
(5) 甲状軟骨、輪状軟骨、舌骨、頚部正中軟部組織(舌骨下筋、皮下脂肪織)への浸潤の有無を確認し切り出します。
(6) 甲状腺が合併切除されていた場合も浸潤の有無を確認し、切り出します。

(声門上部癌、声門癌、声門下部癌)
(1) 部位が声門上、声門、声門下のいずれであるかを確認します。
(2) 縦切り(前額断あるいは冠状断)にします。あるいは上下を縦切りにして中央部を輪切りにします。写真を撮ります。
(3) 断端を提出します。断端はいずれも腫瘍から最も近い部分を切り出して下さい。喉頭の断端は喉頭蓋舌面(前方)、被裂喉頭蓋ひだ(側方)、披裂(後方)となります。腫瘍が断端から最も近い部分をそれぞれ切り出します。気管断端は輪切りにして提出します。
(4) リンパ節を探し、存在すれば提出します。
(5) 喉頭蓋前方の組織、声門、声門周囲腔、輪状軟骨、甲状軟骨、気管、咽頭(輪状後部)、頚部軟部組織への浸潤を確認し、切り出します。
(5) 甲状腺、食道がついていた場合も浸潤の有無を確認し、切り出します。

リンパ節転移があったり(特に2個以上あるいは被膜外浸潤を伴う場合)、顕微鏡的切除断端陽性あるいは5mm以内の場合は放射線療法が行われることがあります。化学療法が併用されることもあります。

5. 肉眼像と切り出しの実際

声門癌

喉頭癌(放射線治療後)

下咽頭癌