5. 肝

1. 肝の解剖

肝臓は充実性臓器です。消化管から吸収された物質を含む血流が門脈を通って肝に入り処理されます。肉眼的には大きく左葉と右葉に分かれます。胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線によりその左側を左葉、右側を右葉とします(下図:肝臓の部位)。それぞれは門脈の走向に従って前・後側、内・外側の4つの区域と尾状葉に分けられます(ヒーリーとシュロイの分類)。あるいは、S1-8の8つに分けることもあります(クイノーCouinaudの分類)。肝癌取扱い規約第5版補訂版では両者の分類が組み合わせて使われ、S1-8は亜区域と呼ばれます(下図:Couinaud区域分類)。肝に入る血管(門脈と肝動脈)、肝から胆汁を分泌する胆管の3つは結合織によって束ねられており、それをグリソン鞘と呼びます。グリソン鞘にはリンパ管も含まれます。肝臓から出て行く血管(肝静脈)は左、中、右の3本となり、最終的に下大静脈に入りますが、直接下大静脈に入る枝(短肝静脈)も存在します。



2. 肝臓の検体

肝表面は平滑で光沢のある被膜により覆われており、この被膜の膨隆やひきつれは腫瘍結節を確認するのに有用です。一方、切除断端はざらざらした凹凸のある肝実質が露出し、熱による変性像を呈すことからオリエンテーションをつけることができます。
肝腫瘍として最も頻度が高いのは転移性です。肝臓に発生する腫瘍には主に肝細胞癌と肝内胆管癌があります。
肝切除検体は腫瘍の種類によって異なります。
転移性肝癌で切除される場合の多くは大腸癌の転移で、くりぬくように部分切除されます。
肝細胞癌は門脈に沿って広がると考えられるため、門脈の支配領域が切除の基本単位となります(系統的切除)。切除検体中に含まれる腫瘍結節は通常、3個以下です。系統的切除としては左葉(S2-4)、右葉(S5-8)やそれぞれの端にある外側区域(S2,3)、後区域(S5,6)の切除が主に行われます。その他、3区域切除(左葉+前区域あるいは右葉+内側区域)や中肝静脈を合併切除する拡大葉切除も行われます。中央部分である前側あるいは内側区域のみを切除するのは複雑な手術であるため、通常は葉切除や3区域切除などを行います。肝は高い再生能力を有するため、縮小手術が必要となることはあまりありません。切除範囲の決定には肝機能が重要となります。 肝機能が低い場合に亜区域切除が行われることがあります。肝細胞癌はリンパ節転移の頻度が低いため、予防的な郭清は行われません。
肝内胆管癌は、発見時には進行例が多く検体として提出されることは比較的少ないです。腺癌が大部分でリンパ節郭清が行われます。

2. 肝臓癌の肉眼的分類

肝臓癌の肉眼的分類の特徴は腫瘍の大きさだけでなく、個数や脈管侵襲がT分類に組み込まれていることです。
1) 腫瘍個数が単発
2) 腫瘍径が2cm以下
3) 脈管侵襲なし(門脈、動脈、胆管)
T1: 1), 2), 3)の全て合致
T2: 2項目合致
T3: 1項目合致
T4: 全て合致せず

3. 肝の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション

3) 計測と肉眼所見の記載
肝細胞癌では非腫瘍部肝組織の多くは慢性肝炎によって線維化しています。指で触って固く、漿膜面がでこぼこしていたり、割面に結節(通常1cm未満)がびまん性に見られる状態を肝硬変と呼びます。1cm以上の結節は数と大きさ、被膜の有無、断端からの距離を計測し割面の色を観察します。切除面を観察し、露出の有無を確認します。肝内胆管癌は胆道系に沿って広範囲に広がることがあるため、断端については執刀医と相談した方がよいでしょう。

4) マーキング
断端部にインクでマーキングします。

5) サンプリング
(1) 切除断端には通常多数のクリップがありますので可能な限り取り除きます。ステープラー針が存在する部位は太い脈管断端の目印になります。切除断端に垂直な面を0.5~1.0cm間隔で連続的に切ります。系統的切除がされる肝細胞癌の場合、腫瘍が検体の中心部に存在するとは限りません。また、肝細胞癌の特徴として門脈を介した肝内転移以外に複数の場所で発生し多発すると言われています(多中心性発生)。小型で高分化な肝細胞癌は画像的あるいは肉眼的に肝硬変による再生結節と区別が困難な場合もあります。主腫瘍以外にも周囲の結節より明らかに大きい結節あるいは1cm以上の結節が認められればブロックにします。断端の近くは特に注意してください。
(2) 切除断端から腫瘍辺縁部までの距離を計測します。転移性大腸癌の場合は断端からの距離が1cm以下であると5年生存率が低下すると言われていますが、癌の露出がなければよいとする報告もあります。一方、肝細胞癌では断端距離は必要最低限でよいとされています。腫瘍に最も近接した切除断端からの垂直切片を採取します。
(3) 脈管断端を作製します。系統的切除が行われた場合、葉切除あるいは後区域切除であれば通常1箇所のグリソン鞘(門脈、肝動脈、胆管)の断端があり、外側区域切除では2箇所の断端があります。肝細胞癌で断端の近傍に門脈塞栓が認められる場合は垂直切片の方がはずれにくいです。肝内胆管癌の場合は輪切りにした方が胆管断端の上皮内進展を捉えやすいです。肝静脈断端に関して検体は左、中、右と3本ある太い肝静脈のいずれかを含むことがありますが、尾状葉切除のように多数の短肝静脈のみの場合もあります。
(4) 肝被膜と腫瘍、周囲肝組織と腫瘍、血管侵襲部を含む切片を作ります。さらに腫瘍の色調の異なる部分があれば作ります。腫瘍の辺縁部は隣接する組織を含んでおり、中心部に比較すると壊死組織が少ないので情報量は多いです。
左葉内側区域(S4)あるいは右葉前下区域(S5)は胆嚢と接している部分(肝床)があり、表面であっても漿膜面ではないことがあります。
(5) 腫瘍から離れた部分の肝組織をブロックにしてください。残っている肝の慢性肝炎および線維化の程度を知る手がかりになります。腫瘍結節から離れているものほど情報量は多いです。

肝細胞癌は切り出しの結果によって術後補助療法が行われることはあまりありません。再発した場合は残っている肝の機能などによって次の治療が検討されます。
胆道癌切除後断端陽性例に対し、化学療法や放射線療法が施行されることがあります。ただし、断端陽性でも上皮内癌であれば陰性の場合と予後には差がないという報告があります。
転移性肝癌に対しては断端の状態に関わらず、術前あるいは術後に化学療法が行われることがあります。

4. 肉眼像と切りだしの実際
肝細胞癌(右葉切除術)






























胆管癌(後区域切除)






























転移性肝癌(S5,6部分切除)