6. 膵

1. 膵臓の解剖

膵臓は充実性臓器です。膵癌取扱い規約(第6版補訂版)では向かって左から順に頭部、体部、尾部に分けます。上腸間膜静脈の左側縁までが頭部で、残りを2等分したものが体部と尾部です。頭部で後下方に伸びる部分を鈎状突起と呼びます。頭部の上腸間膜静脈によってへこんだ部分は頚部あるいは膵切痕と呼ばれ、膵頭部を切除する際の目印にされます。膵臓は胃の後方に位置し、向かって左は十二指腸、右は脾臓までの範囲に存在します。膵臓の中には膵液を十二指腸にまで運ぶ膵管が通っています。十二指腸に近づくにつれ合流し、最後は主膵管、副膵管の2本になります。主膵管は副膵管と分かれた後、膵頭部を下方に曲がり、次に水平に走行し、最後に後上側から入ってくる総胆管と合流して十二指腸下行部に開口します。開口部は隆起しており、主膵管の開口部を主乳頭、副膵管の開口部を副乳頭と呼びます。

上腸間膜動脈からは強靱な神経叢が上腸間膜静脈の裏側を通り、鈎状突起まで伸びています。膵後面の結合織は大部分鈍的に剥離することができますが、この部分はメスや電気メスなどで切る必要があります。

2. 膵臓の検体

膵病変の切除検体として提出されるもので多いのは膵頭十二指腸切除検体、膵体尾部切除検体があります。膵頭十二指腸切除は通常、年間20例以上の症例を有する施設で行われます。

1) 膵頭十二指腸切除

膵頭部とともに十二指腸、胆管、胆管、胃の一部が切除されて提出されます。膵癌、胆道癌(乳頭癌、中下部胆管癌)の場合に行います。膵頭部の上前部に腫瘍がない場合は、胃の一部を切除しないこともあります。門脈は画像上で狭窄があれば合併切除されますが、組織では浸潤が確認できないこともあります。検体のオリエンテーションは複雑です。切り出し後の検体再構築が困難となる場合が多く、肉眼所見の記載、写真による記録がより大切です。膵切除断端が糸で結紮されている場合は固定の前に糸を切っておいた方が、切り出しやすいです。

2) 膵体尾部切除検体

膵体尾部および脾臓とともに切除され提出される検体です。脾臓は栄養血管(脾動脈)が膵体尾部に密着しているために切除されます。脾臓に癌が直接浸潤していることはあまりありません。

3. 膵臓の切り出し

1) 名前とIDの確認

2) オリエンテーション

膵頭部十二指腸切除検体ではまず十二指腸近位端と遠位端を識別します。近位端は遠位端よりも短いです。十二指腸は外壁あるいは側壁で開きます。次に胆管の同定を行いますが、内腔は緑色をしています。胆嚢が付属している場合には胆嚢と胆嚢管がつながっていることを利用して総胆管を同定します。通常、胆嚢管の近傍に胆管(総肝管)断端が存在します。固定によってもオリエンテーションは変化します。充実性臓器である膵は板に打ち付けると変形します。十二指腸粘膜を上に向けて板に打ち付け、板の中央に開けた穴から膵頭部を出し、ホルマリンに浮かべるとより生理的な形態を保ちながら固定できます。

3) 肉眼所見、計測

(1) 膵臓の大きさを計測

(2) 十二指腸の長さ計測

(3) 胆嚢の大きさ、胆管の計測

画像診断では総胆管の内径は6mm以上を拡大とすることが多いようです。狭窄や閉塞があると、それより肝に近い側が拡張します。過去に胆嚢摘出術を行ったことがあっても拡張するようです。

(4) 病変の部位、数、大きさ、剥離断端への癌の浸潤の有無を観察します。

① 病変の部位が膵、総胆管、乳頭部のいずれであるかを確認します。膵癌は胆管癌、乳頭部癌に比べ剥離断端が陽性になる確率が高く、予後も不良です。胆管癌、乳頭部癌は膵に浸潤すると予後は悪くなります。潰瘍形成の有無を記載します。

② 表面が硬く平坦になっていると直下まで癌が達している可能性があります。しかし、膵癌の浸潤は散在性であり、肉眼的には断端に露出しているか否かがわかりにくいことが多いです(組織学的に1mm以下まで達していれば断端陽性とする文献も存在します)。

③ 剥離断端は大きく膵前面と膵後面に分けることができます。膵前面は腹膜に覆われた部分であり実際には剥離断端とはいえませんが、この部分に腫瘍細胞が存在すると再発の危険性は上昇するとされています。膵後面は上腸間膜動脈側断端と上腸間膜静脈側断端、およびそれ以外に分けることができます。上腸間膜動脈側断端は鈎状突起内縁が神経叢によって上腸間膜動脈に固定されている部分です。メスや電気メスなどで切る部分なので平坦になっており、鉗子ではさんでいる場合は変形しています。この神経叢に沿って癌が進展し断端が陽性になることがあります。上腸間膜静脈側断端は上腸間膜静脈によって膵がへこんだ部分であり、頚部あるいは膵切痕にあたります。剥離断端が陽性となるのは膵前面よりも後面が主です。

④ 稀に膵癌の診断で腫瘤形成性膵炎が切除されることがあります。腫瘤形成性膵炎は膵癌に比べ境界明瞭で割面は灰白色、均一な印象を与えます。

⑤ 膵癌は慢性膵炎や糖尿病を契機に発見されることがありますので、非腫瘍部の固さや色も観察します。固定後でも慢性膵炎の検体は正常より固くなっています。

⑥ 主膵管の直径は平均すると3mmで、10mmを越えると拡張と考えます。膵管内腫瘍で拡張していることがあります。

4) マーキング

2色あれば膵前面と後面を別の色で塗るとオリエンテーションがわかりやすくなります。4色あれば、上腸間膜動脈側断端と上腸間膜静脈側断端およびそれ以外の膵後面、膵前面で塗り分けます。また、顕微鏡下では胆管と主膵管の区別が難しいのでマーキングするとわかりやすくなります。

5) サンプリング

以下の記載は原則的に膵癌取扱い規約(第6版補訂版)に従っています。

(1) 切除断端を切り出します。切除断端は膵頭十二指腸切除術では十二指腸近位および遠位断端、総胆管、膵管の4カ所、膵体尾部切除術では膵管の1カ所です。いずれも輪切りにします。

(2) 膵に割を入れます。切り出しの方法によって剥離断端の陽性率は異なると言われています。連続割面を作製すると、未摘出のリンパ節が見つかりやすくなり、割面を写真撮影すれば後ほど肉眼像を確認できます。

① 膵頭十二指腸切除標本の場合は水平断にする方法と主膵管を輪切りにする方法があります。

水平断にする方法では十二指腸乳頭開口部を通るKerckring皺壁(けるくりんぐしゅうへき)に平行する割面を起点とし、口側および肛門側に約5mm間隔で連続組織片を作製します(下図:膵頭十二指腸の切割)。中下部胆管癌もこの方法で切り出します。

下方に曲がる主膵管を輪切りにする方法としては、まず切除断端を水平に切り出し、鉤部をかなめとして扇形に割を入れていきます。かなめの部分がせまくなり剥離断端がうまく出ないため、あまり行いません。膵管内腫瘍の場合に行うことがあります。

② 体尾部切除標本の場合は切除断端から5mm間隔で膵の長軸に直角な連続組織片を作製します。

③ リンパ節が別に提出されていたら数を数えて下さい。術中に全てのリンパ節が摘出されるわけではないので割面にリンパ節が見られたら必ず提出して下さい。体尾部切除標本では脾動脈に沿ってリンパ節が残存していることがあります。

(3) 割面の写真を撮影をします。

(4) 膵癌取扱規約(第6版補訂版)では組織で主膵管内進展を記載しなくてはならいので膵を全て包埋する必要があります。

(5) 胆嚢または脾臓は代表的割面を1枚切出します。

胆道癌切除後断端陽性例に対し、化学療法や放射線療法が施行されることがあります。ただし、断端陽性でも上皮内癌であれば陰性の場合と予後には差がないという報告があります。

膵癌に関して術後補助療法としてゲムシタビンによる化学療法が行われることがありますが、切り出しの結果が反映されるようなガイドラインは確立されていません。その理由の一つとして、剥離断端が予後に影響しないとする報告が存在することが挙げられます。こうした報告は切り出しが不十分で実際は剥離断端が陽性の症例が存在する可能性があります。現在のところ、切り出しの主な目的は予後を推定することに留まります。その他、腫瘍径やリンパ節転移が予後に影響する因子として挙げられています。

4. 肉眼像と切り出しの実際

膵頭部癌

下部胆管癌

膵体部癌